塩分制限の効果
ポテトフライが好きなイメージがある米国人は、塩分摂取が多そうな気がします。でも平均では1日6グラム程度の摂取量だそうで、10グラム以上摂取する日本人の方が量は断然多いようです。米国人の塩分接種量を検査し、塩分量と病気、血圧などを大がかりに検査した統計が発表されました(New Engl J Med2014;371:612-623)。
それによると、塩分の接種量が多い人は心臓病が増え、寿命が短い傾向がありました。現在の常識が裏付けられた結果で、やはり塩分過多は避けるべきもののようです。この研究では摂取する塩分の量を、尿を使って検査しています。問診による推定値より正確な評価が出来ると言えますが、汗や便を通じて排泄される塩分の量まで検討しているわけではないと批判できるかもしれません。正確な摂取量は完全な空調の元に運動も制限し、尿を含めた全ての排出物を検討する必要があり、日常から遊離したデータになりますから、試験方法に限界はあると思います。
そうとしても、塩分排泄量と寿命の関係が明らかなら、塩分過多の食生活は少なくとも推奨はできないと考えるのが当然でしょう。摂取量の多い日本人では、さらに大きな影響があるかもと、気になります。
別な論文では、塩分摂取の世界的な影響を検討しています(N Engl J Med 2014; 371 :624-634)。最小限の塩分摂取量を1日2グラムと設定すると、年間で160万人の人が塩分過多で亡くなっているという結論が出ています。 この論文は多数の論文から推計する形で結論を導いていますので、その結論に至る根拠の詳細は解りませんが、日本が塩分過多によって特に著しい死亡者数を出しているとは書かれていません。欧州と同様と評価されています。日本では既に数十年前から塩分制限が推奨されて来たことや、降圧剤の効果で死亡率が修飾されている影響もあるかもしれません。
ただし1日2グラムという数字は、日本人の味覚では少々辛いものがあると思います。制限する場合も現実的なレベルで、しかも徐々に慣らしながらのほうが良いのではないでしょうか。
慣らすことは必要と思います。塩分の制限には用心も必要です。熱中症が心配な時期に過激な制限はできません。塩分を具体的にどれくらい摂取するか、特に高血圧や腎機能障害がある方の場合は、個人の状況に応じて細かく考える必要があります。制限しすぎるとミネラル異常に陥り、若い人と同じように摂取すると血圧を上げるからです。御自分の自覚症状は、よほど高度な変化がないかぎり変化しない、つまり症状は当てにならないと思います。
高齢者や精神疾患の方で、著しく血清ナトリウム値の低いケースを経験します。時には御飯に塩をふり掛けて食べてもらうことさえあります。ナトリウム値が極端に下がると、意識状態や循環状態が悪化し、生命の危機につながります。ナトリウムが下がる理由はたくさんあるため、原因が特定できない場合も多々あり、予測が難しい関係で過激な塩分制限は危険です。
血液中のナトリウム濃度には腎臓や副腎という臓器の機能、脳の状態、ナトリウムの吸収や排出に関わる細胞表面の蛋白、血液中の糖分や蛋白の量、水分と塩分の摂取量、発汗の状態、便の状態、外傷や感染の有無、そのような諸々の因子が複雑に絡んでいるため調節能力には個人差があるようで、同じ環境下でもナトリウム値には大きな差が生じます。それを考えずに極端に塩分制限、または過剰投与をするのは危険です。
個別の状況を確認できたら、基本としては徐々に塩分を制限する方向で考えたほうが良いと思います。 ただし、具体的にどのように‘徐々に’するか、まだ判明していません。表情を見るだけで検査しないと、判断を誤ります。入院患者のように個々に検査することができない場合に、どうやったら安全に減塩できるか、今後の検討課題です。血液検査で確認していけば安全と思いますが。
診療所便り平成26年11月分より・・(2014.11.30up)