栄養素のバランス
痩せたいときには何を減らしたら良いのでしょうか?ある人はご飯を減らせといい、ある人は肉を減らせと言います。
栄養素の中で、炭水化物を減らすべきか、蛋白質または脂肪を減らすべきかというバランスについて、最近研究結果が発表されました。結論は、とにかく全体のカロリーを低くすれば、どの配分でも効果はあるというものでした。
(N.Engl.J.Med.2009; 360 :859-73)
蛋白質や脂肪、糖分はお互いに分解、合成されています。
「アタシ、油なんか全然食べないのに、なんで脂肪が減らないのかしら?」と不思議に思われるかもしれませんが、当然なのです。脂肪をほとんど摂らなくても、カロリーが多いと糖分や蛋白質から脂肪が合成されます。したがって、@極端に何かの栄養素を制限しても意義は低い、Aカロリーを制限しない限り体脂肪は減らない、と考えられています。
今回の研究でも、「やせるためにはカロリーを減らすのが有効。」というのが結論で、脂肪だけ、炭水化物だけを制限すべきであるという結果ではありません。もちろん、バナナだけ食べれば痩せるという結果でもありません。バランスによって多少の差はあるとしても、ダイエットにはカロリー制限が最も有効という旧来の考え方が支持されたと考えるべきでしょう。
また、この研究は数十年にわたって調査したわけではありませんので、極端に何かを制限した場合の長期的な副作用は解りません。したがって、現時点では痩せるためにカロリーを減らしたとしても、栄養素のバランスにも注意し、不足する栄養素がないようにしたほうが無難でしょう。
日本人の栄養素バランスについての統計が定期的に発表されますが、戦前は炭水化物でカロリーのほとんどを摂取していたようです。カロリー自体は戦前戦後で大きく変ってはいないのですが、戦後は食文化の変化により脂肪分が極端に増えています。糖尿病が戦後に増えていることから、脂肪分は減らすべきだという意見もあります。
確かに脂肪分は、見た目は少なそうでカロリーは非常にありますし、多すぎれば代謝全般への影響はあるはずです。私も、脂溶性ビタミンが不足しない程度に脂肪分を減らすべきと考えています。
でも、実際に脂肪を減らしたことで糖尿病が減るかどうかについては、あまり確実なことは言えません。脂肪と日本人の糖尿病との直接の因果関係は証明されていません。今は車があるので昔と比べて体の動かし方は随分減っていると思います。運動量の影響を除外して、純粋に脂肪分だけの影響を検討することは難しいので、あくまで推測にすぎません。
今回の研究結果から想像するに、食事の中の脂肪分だけを減らし、他の食品を増やさなければ、おそらく体重は減るでしょう。体脂肪は高血圧、糖尿病、動脈硬化の発生に影響するはずですので、体重が減れば糖尿病も減る可能性が高いと思います。単に見た目だけの問題ではなく、将来の病気の予防、健康の維持、医療費の節約などの意味があると考えます。
平成21年4月 診療所便りより 院長 橋本泰嘉