***  ダイエットの極意  ***


ダイエットという言葉は、がまんや失敗のむなしさを連想させます。たくさんの人(特に女性)が苦闘されていますが、なかなか成功しません。おそらく肥満についての考え方に問題があるからだと思います。

「肥満は食いすぎ」と単純に考えると、食事制限→ 空腹の辛さ→ 体調不良や精神的苦痛→ やけ食い→ 後悔という、お決まりのコースをたどりがちです。


今日では肥満は精神的要因、脳神経の調節異常、内分泌や代謝の調節異常を含めた複雑な病的状態と考えられています。ですから、食事制限で簡単にやせられないのは当然でしょう。「テレビで効果があると聞いて、これを試したけど効果がなかった。もう体質だからしょうがない。」というのは短絡的ではないでしょうか。
肥満は根が深く、何かを試したくらいでは効果が長続きしなくて当然です。安易な道ではリバウンド(やせた後、また太ること)してしまいます。


治療のカギになるのは行動療法だと思います。行動療法とは精神科的な手法で、食事という行動を詳しく考え直し、患者さんと医療者が共同して分析しながら工夫していく方法です。問題点を正しく認識できていれば、そうそう肥満にはなりません。肥満の人は実際の食生活と、ご自分の認識する食生活にズレが多いと報告されています。これを患者さんの記録から探していくことができれば治療の第一歩が踏み出せます。


肥満の治療に限りませんが、生活習慣に関することを改善するためには、考え方というか生き方そのものを変える意味合いがあると私は思います。栄養士などと協力して教室を開いてしつこいくらいに指導するのですが、残念ながら効果がない人には全く反応すらありません。


考えてみれば、教室では私のような者から「生き方を変えなさい」と言われるようなものですから、いかに内容が正しかろうと何かしら精神的反発もありますし、理解と別に心にまで届くような納得は得にくく、生活は簡単に変るはずがありません。行動療法は、患者さんの学習や分析を通して、深く理解していただき意欲につなげることをねらえる点が優れています。


運動療法もカギの一つです。でも運動で使うカロリーはそれほど多くないので、代謝を活発にし、生活のリズムを作る補助手段として考えるべきです。また、栄養のバランスに関する知識も必要ですが、栄養士のような詳しい理解にこだわると、それだけで終わってしまってチンプンカンプンのまま効果があがらないのが常です。難しい知識は後回しでよいと思います。食生活の問題点の例としては以下が挙げられます。


体重や生活の記録が不充分で検討すらできない
噛む回数が不足し、早食いになっている
食事の時間が不足
食事の時間が不規則
空腹感を充分感じないうちに食べてしまう



ですが、「ふんふん、私の問題は時間不足だから時間をかけて食べればいいや。」というように簡単に決めつけると、効果が思うようにあがらない時に対処できずに自信喪失してしまいます。繰り返しになりますが、肥満は複雑な要因で起こってますから、簡単に分析できるほうが不思議です。何事もそうですが、いい方法があるとしても意味をわかってやらないと徹底しません。面倒ですが、分析し意義を理解しながら治療すべきです。




平成17年9月診療所便りより