ダイエット、運動と膝の痛み         

(変形性膝関節症)・・・膝の痛みのデータは少ない・・・
近年は痛みを麻痺させる鎮痛剤が発売され、乱用されている傾向もあるように思います。効果は確かに強いものの、神経に直接作用する麻薬に近い性格の薬の場合、副作用も独特のものがあります。   
一般に膝の痛みに対して、体重を減らすのが効くという話は以前から聞きます。体重が減れば、膝への負担が減るので当然でしょう。太ももの筋肉を鍛えるのも必要という話もよく紹介されています。ただ、具体的にどの程度やせれば良くなるのかは、しっかりしたデータを持つ人が少なく、数値を挙げての説明が難しいため私自身も理解不足でした。
運動やダイエットの効果に関して発表がありました(BMJ2013;347:f5555)。 

(体操と関節痛)・・・体操は関節痛を悪化させない・・・  
提示した論文は柔軟体操やエアロビクス、水中運動など、様々な運動内容を組み合わせ、運動する人としない人で痛みや機能を比べた研究です。運動によって関節の痛みが悪化したという傾向は、この研究では認められない、運動した人のほうが経過は良いという結論でした。
具体的な有効率に関しては、運動の内容によって1割〜数割の違いはあったようですが、読んだ限りでは組み合わせて色々されると良い傾向があるものの、特に際立って優れたメニューはないようで、どれも良いようです。ただし、運動量については限界もあるはずです。無茶すれば傷めないはずはないようにも思えます。  

(ダイエットと運動) ・・・ダイエットと運動併用が有効・・・
また、ダイエットと運動を組み合わせて、それぞれの効果を検証した統計もあります(JAMA2013;310(12):1263-1273)。   
この研究の分析では、運動だけのグループは著しく状況が改善したとは言えない結果でした。運動とダイエット両方できたグループが、症状の指標でおよそ3割、血液中の炎症反応の指標で1割強の改善が証明されています。完全に痛みが消えないとしても、割合として3割軽くなるなら、非常に楽に感じるのではないでしょうか。運動だけで効果があるかないかについて、ふたつの統計は意見が食い違っていますが、統計処理や評価の方法によるものと思います。  
痛い時には安静が原則と私は思っていましたが、言い方を間違っていたかも知れません。例えば膝を酷使して急に痛くなった時期は炎症が強いはずで、負荷がかかると痛いばかりでしょうから、運動は現実的ではないと思います。しかし、急性期を終えた時期も痛いからと安静を保ってしまっては、長期的な経過を悪くしてしまうでしょう。慢性的に痛い変形性関節症の場合は慎重に計画する必要はありますが、運動は必要と思われます。  
問題点として、この発表ではダイエットで10キロ以上も体重を減らしていましたので、簡単ではないはずです。日本人の体格だと、7〜8キロに相当するかもしれません。7キロ体重を減らせる人は、どれくらいいらしゃるでしょうか? かなりのカロリー制限が必要と思います。  

(運動と寿命)・・・運動は卒中を減らす・・・
さらに広い問題、そもそも運動が寿命を延ばすかといった問題に関しても、最近までの統計を集めた解析がなされています(BMJ2013;347:f5577)。 
その中で、運動が脳卒中を予防する効果に関しては、かなり期待して良いという結果が出ています。薬と比べてもより有効であるという解析結果でしたが、もともと脳卒中は明らかな麻痺が出ない限り判定が難しく、比較評価も微妙になりやすいので、運動だけに過度の期待をしてはいけないような気もします。
 
糖尿病や、心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡率に関しては、薬を使うことと運動することの間で効果に大きな差がないという結論も出ています。病院では、さかんにコレステロールや血圧を下げ、血をサラサラにする薬を飲めと言われると思いますが、それらの薬は際立って有効で万能ではなく、病気によっては運動と有効率においては同等という結論です。
ただし運動も無害で万能とは言えないようです。例えば心不全の防止に関しては、利尿作用のある薬と比べると効果の証拠があるとは言えないようです。運動が心臓を丈夫にし、心不全を予防する効果があるとは言えません。心臓に負荷をかけるから当然かも知れません。
この論文は解析の方法に欠陥があるので、頭から信じるべきではありませんが、運動には思っていたよりも大きな意味がありそうと感じられるのではないでしょうか?




     診療所便り平成25年12月分より・・・(2013.12.31up)