
[Comflict
of interest]
(利益相反関係)
医学研究を発表する際に、製薬会社との関係を明示することが求められるようになって来ました。専門的な言い方では、comflict(s) of interest(内心の興味の葛藤、公益と私益の対立、利益相反関係)の提示と言われています。アメリカの病院で、製薬会社からの贈り物を制限することで、処方される薬に違いが生じるかを検討した研究があります(BMJ2013;346:f264)。
宣伝中の薬は、セールスを受ける医者で多く処方される傾向があるようです。有名な病院の先生でも、そんな傾向があったということは頭に入れておいたほうがいいでしょう。病院の先生から「この治療法が最善です。」と言われても、実はそれは宣伝によるのかもしれません。
(製薬会社と医者)
薬の開発には大きな資金が投入されますので、開発に成功し広く使われるように製薬会社も必死です。 評価を担当する医者の中には、講演料や監修料の名目で金品、サービスを受領する人もいます。その場合、嘘でないとしても強調の仕方に手心が加わるのは自然の流れです。利益が絡む関係があれば、その人の発言や発表には注意が必要になりますので、comflict
of interestの提示が求められます。
旧来の考え方だと、「立派な先生が学問の真理を曲げることはありえない。だから確認する必要もない。」という建前があり、実情は無視されていました。本人の倫理感や常識に任せるのが本来は理想です。告発は権威を侵害し古いルールを逸脱するスタンドプレー、個人攻撃になりがちですから、実害がないなら避けたいものです。
(利益相反の例)
実害に関して例を挙げると、原子力発電に絡む電力会社、学会と政府機関などは利益相反が問題になる関係です。規制する側、研究機関が甘い判定をすれば、金と人の交流が円滑に保たれます。実情は解りませんが、双方の利益のために危機管理は後回しになり事故を防止できない、そのような癒着体質があったと疑われます。極端に言えば、出世できるのは倫理にもとる行為も厭わない人のみという事態も起こりえます。原発の事故は、建設計画や管理体制を真摯に練っていれば防げた可能性がありますが、人間関係に波風を立てないために問題提起を怠っていると、起こるべくして事故が起こります。
大学病院の場合、治験(薬の効果の評価)結果に偏りがあることを、海外の研究者から指摘されるという恥ずかしい事例が複数あります。 断言はできませんが、教授の業績と製薬会社の利益が合致し、癒着するからではないかと思います。 偏重や事故を予防するため、倫理感の客観的評価が必要というのが海外の考え方で、comflict of interestの提示は、その一環です。
(問題点、限界)
ただし、提示は万能の指標ではありません。利害関係をどこまで提示すべきか定義が難しく、法的な拘束も設定しにくいと思います。 例えば、今は金銭をもらっていないが、将来は再就職(天下り)や接待で利益を得る場合、今の段階で提示しないから糾弾できるとは考えられません。 個人情報の保護を理由に、本当の利害関係を隠す人物もいるはずです。提示による効果は限定されます。
それに、あんまり厳密に関係を追及すると、魔女狩りのような険悪な雰囲気が生じる点も問題です。提示させたことで、どのような効果があったのかの判定も難しいでしょう。また、我が国には利益相反関係を明示してきた歴史はなく、風習や伝統の面からも提示には無理があると思われます。
(処方、診療行為に関して)
そもそも新薬に興味を持つのは悪いことではなく、古い薬に欠点があれば新しい薬に期待するのは当然です。医療の進歩から取り残された処方内容では、充分な治療は出来ません。日本人は新し物好きですから、患者さんも新薬を喜ばれると思います。新しい治療法、器具などについても同様で、いつまでも古い観念にとらわれた治療法に固執すると、患者さんの利益を妨害することに他なりません。
ただし、いかに優秀な先生でも誇張、偏重や間違いはありえます。患者さんの不利益を防止したいなら倫理的制約は必要で、倫理を気にするなら立場の提示は自発的にされると期待されます。提示されない場合は、なぜ提示しないのかと考えてみるべきかもしれません。
真に有効な治療法かどうか、実害が起こりうるかが大事で、間違いを避けるための措置をとらないと、事故や隠匿、虚偽報告は繰り返されます。 害を避けるため我々にできることは、倫理を気にしない会社や人物を支持しないことです。利益相反関係を提示していなければ信用しないというセンスは最低限必要かも知れません。
できれば公職選挙の立候補者やスタッフに利益相反関係の提示を義務付けてもらうといいのですが、厳密にやると立候補できる人がいなくなる気もします。それも怖ろしいことですが・・・・
診療所便り平成25年5月分より (2013.05.31up)