女性の高コレステロール血症を治療すべきか?
女性はコレステロールが高くても心配しなくていいという話を聞かれたことはありませんか?
2年前くらいから性差を考えた治療をしようという考え方が広まりましたが、コレステロールについては女性も男性と同じ基準で治療すべきなのかが不明確でした。そのため、テレビで女性ではコレステロールを下げる必要はないと発言する学者もいました。私は学会の基準を無視するからにはそれなりのデータが必要なはずだと思って見ていましたが、発言の根拠は必ずしも充分ではないという印象を持ちました。
昨年、コレステロールを下げる薬を飲んだ人と食事療法だけをした人を比較した研究が発表されました。日本人を対象にして、使った薬は通常量で、女性が患者さんの多数を占めますので参考になる研究だと思います。結果は、飲んだ人のほうが死亡率や心筋梗塞の発症率が3割くらい減り、脳梗塞についても減る傾向が認められました。したがって、おそらく女性でもコレステロールを下げるほうが寿命を延ばし病気を予防する点で良いだろうと考えられます。テレビでコメントしていた人達がうそつきとは言いませんが、一般的な考え方とは言えないように思います。
救急外来にやってくる心筋梗塞の患者さんには女性もたくさんいます。上手に治療すれば死亡率は3%以下ですが、体格が小さい方や内臓の機能によってはカテーテル治療が難しいか、かえって状態が悪くなる人もいますので、救急病院に行けば大丈夫とは言えません。血管が全体的に細くてどうしようもないという患者さんがたくさんいます。そんな経験を持てば、やはり予防が第一だと思うはずです。ちなみに将来はまずCT等で血管を写して可能な人だけに手術や血管を拡げる治療がされるようになると思います。今はまだCTの解像度が不充分なので、緊急でカテーテル検査をやらざるをえないのですが、緊急で検査をするから良い医療とは言えません。
予防のためには本人と家族が禁煙すること、血圧や血糖値や体重をコントロールすること等に加え、コレステロールの管理が必要というのが一般的な考え方です。下に現在の日本の基準をまとめました。
コレステロールの目標値(日本動脈硬化学会)
コレステロール以外に何の問題もない人 → 240以下
血圧、糖尿病などの問題(危険因子)が2個まで → 220〃
問題(危険因子)が4個まで → 200〃
心臓の血管が細くなっている人 → 180〃
寺原診療所便りより 平成18年1月 橋本泰嘉
(補足 平成18年3月))
今回の話の根拠にしたのはMEGAスタディです。メバロチンという薬を飲むか飲まないかで心筋梗塞などの発生が減るかどうかを調べた研究です。女性だけの統計が少ないので、男性と同じ基準で治療すべきと断言はできません。また、閉経前と後で成績も違うと思われますが、はっきり閉経前は放置してよいというだけの根拠が希薄です。
閉経前の女性は当然若く、もともと動脈硬化の所見はとらえにくいはずですから、短期間に心筋梗塞を減らす効果を証明することは困難でしょう。臨床研究の期間はせいぜい5〜6年が多く、期間の短さのために有意差を出しにくいだけかもしれません。
でも問題は、コレステロールを放置した20年後にどうなっているかです。他の様々なスタディでコレステロールの治療効果が証明されている中で、治療せずに放置してよいと断言するためには確実な根拠が必要ではないでしょうか。
話が複雑になりますが、少なくとも現時点で治療する必要はないと断言できないので、スタディの結果に準じて積極的治療を勧めるべきだと思います。
20年くらいして、昔は治療が必要ないと言いましたけれど必要だと分りました、けれど動脈硬化は完成していて謝っても遅い、ということはないようにしたいと思います。
(補足 平成18年4月)
まだ医学雑誌には掲載されていないようですが、女性に限ったMEGAスタディの結果が発表されたそうです。結果は、薬でコレステロールを下げたほうが、心筋梗塞、脳梗塞の発生率が低くなり、死亡率も下がっていました。やはり治療しておいた方が無難であると考えられます。治療の基準値については今後若干の変更は必要かもしれませんし、50歳以下の方については今のところ明確な指標はないと思いますが、治療の必要がないというのは早計だったようです。