コレステロールの治療指針 


コレステロールの治療指針が少し変更されました。一般の人には分りにくくなったような気がしますが、学会の偉い先生達の話し合いの結果です。


変更されたのは、悪玉(LDL)コレステロールをコントロールの指標にすることです。今まで言っていたコレステロールは悪玉と善玉などを含めていましたが、厳密に言うと悪玉だけのほうが良い指標ではあります。ただし、それを一般の人に今言う必要があるのか私には分かりません。


人間ドックや健康診断の検査項目を変えると、今までのデータとの比較がややこしくなります。したがって、何が何でも変更しなければならないという根拠がないなら、基準を変える必要はありません。学会は役人達と同じような誤りを犯していると私は思います。


実は、長いことLDLコレステロールを指標にしようと話し合いがもたれていたのですが、現場の混乱を恐れて先延ばしになっていました。最近では、悪玉(LDL)コレステロールよりも善玉(HDL)コレステロール以外の脂質すべてをまとめて指標にしたほうが良いのではないかという意見もあります。アポBという蛋白質もよい指標だと言われています。ですから、今の時点で変更しないほうが有難いと個人的には思っています。しかし、今後は健康診断の結果を見るとLDLコレステロールという項目がついてくるかもしれません。


基準の概略を説明します。動脈硬化を引きおこしやすい危険因子をいくつか想定し、因子が多ければコントロール目標を厳しくしようという考え方です。危険因子がない人はLDLコレステロールの指標は160、糖尿病がある人は120、狭心症の人は100以下を目標とするという具合です。


統計を取ってみると、危険因子が増えるほど心筋梗塞や脳卒中の発生率も増えますので、コントロールを厳しくする必要がありそうです。今回の基準通りに治療して、実際にうまく動脈硬化を予防できるかどうかは断定できませんが、何らかの予防効果があることは確実ですので、高くても手をこまねいてほっておくのは最悪だと思います。


 

危険因子の数

脂質管理目標値

LDL−C

HDL−C

中性脂肪

一次予防

160未満

40以上

150未満

1〜2

140未満

3以上

120未満

二次予防

冠動脈疾患あり

100未満

表のLDL−Cは、LDLコレステロールを意味します。HDL−CはHDLコレステロールです。  

危険因子とは、@年齢(男性は45歳以上であること、女性は55歳以上であること)、A高血圧、B糖尿病または耐糖能障害、Cタバコ、D家族に狭心症や心筋梗塞の方がいること、EHDLコレステロールが低いことのどれかを差します。 


男性で44歳ならコレステロールが高くても関係ないという意味ではありません。男性で45歳以上なら、統計で見るかぎり危険度が高くなっているので、治療の目標値を下げる方向で考えるため、危険因子としましょうという意味です。 

もし、糖尿病や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(体のどこか、特に足の血管が細くなる病気)がある場合には、危険因子3以上と同等としようと勧められていますので、LDLコレステロールの目標値は120未満になります。


ちなみに、閉塞性動脈硬化症とコレステロールの治療の効果を関連付けたエビデンスは、ほとんどありません。残念ながらコレステロールの薬の開発の時に心筋梗塞や脳梗塞に注意が行ってしまって、閉塞性動脈硬化症の進展抑制効果を大規模に調べることができていないのです。



診療所便り      平成19年7月より