コレステロールの治療指針・2012
コレステロールの治療指針が変わりました。統計結果に基づいて、予想される危険度を割り出し、心筋梗塞などの病気を予防するための目標を細かく提示しています。基準が細かすぎるので、患者さんに提示して理解させるのは難しく、参考程度に使うべきかもしれないと個人的には考えます。
概略を説明しますと、10年間でどの程度の冠動脈疾患(狭心症など)を起こす確率があるかを推定し、危険度に応じてカテゴリーT〜Vに区分けし、血圧や糖尿病などを参考にしながら管理を目指そうという流れです。
例えば血圧が200くらいある喫煙者の60歳男性は、それだけで危険度2%以上と考え、カテゴリーVとして血圧は130くらい、コレステロールもギリギリまで下げようといった具合です。
基準は表を見れば解りますが、患者さんにとって一目瞭然の単純さは感じません。過去の統計に基づいているとは言え、できて間もない基準ですから、この基準に沿って管理し、実際にどの程度の狭心症を減らせるというデータがあるとは言えず、もしかすると理屈倒れにすぎないのかも知れません。
過去の基準で治療対象だった方でも、今回の指針ではそうでなくなる場合があります。いったん治療を中止して、また後年治療対象と言われたらどう思われるか、治療を中止して直ぐ心臓病を起こしたら責任をどう考えるか、難しい問題だと思います。
また、狭心症を発症する確率が2%程度を問題とするので、100人に二人の発症が大きな問題なのかも少し気になります。2%程度なら、そう多くない病気だから無視しても良いような気がする人がいるかもしれません。 費用対効果、つまり基準の通りに管理する場合に、治療費がどのような影響を受けるのかも気になります。多額の費用を要するばかりで、微妙にしか患者を救えないなら、基準にどんな意味があるのか曖昧になります。
そもそもコレステロールの治療は必要ないという意見も提唱されていますので、指針を変えても無視される人が多いのが現状でしょう。病気の予防というのは、差し迫った危険性を感じない間はピンと来ません。 激しい動脈硬化症を多数見てきた私には予防が第一のように感じられますが、一般の人は病気になってから考えようかと思うかも知れません。
コレステロールを下げれば、動脈硬化によって発症する病気を減らせることは間違いありません。ただし100%の予防はできず、少し減らせるだけに過ぎませんので、そこに意味を感じるかどうかは、個人の考え方次第です。 私は、入院や寝たきりはごめんです。できれば倒れる確率を減らしたいと思いますし、意味のある治療にお金と時間を使いたいと思います。
診療所便り平成24年12月分より (2013.01.01up)
