アスピリンによる心臓血管病予防
(高血圧、糖尿病患者への効果)アスピリンはよく処方される薬で、誰でも処方を受ける機会がありうるほどの薬剤ですので、知識があったほうが良いと思います。ただし、知識は専門家でも充分とは言えません。はっきりしていないことも多々あり、研究が続けられてるのが現状です。
アスピリンは血をサラサラにします。高血圧や糖尿病をお持ちの方は、脳梗塞や心筋梗塞のような血管が詰まる病気が多くなるので、もしかすると全員アスピリンを飲んだほうが良いかもしれません。そのように勧める医者もいました。その考えの真偽を検討する調査が行われました{JAMA.2014;312(23):2510-2520}。
この調査の結論は、糖尿病や高血圧を理由にアスピリンを飲んでも、寿命が延びる効果は期待できないというものでした。心筋梗塞の発症率などには若干の改善があったようですが、命に関しても有効とは言えないようです。このような検討は熊本大学でも行われています。
(アスピリンの効能)アスピリンは、アセチルサリチル酸の略称(商品名)で鎮痛作用を主な目的に開発され、長い歴史がある薬剤です。おそらく偶然と思いますが、血を固める血小板の機能を抑制することが分かり、血小板凝集抑制による血栓予防薬として世界中で使われるようになっています。使用量を減らしても血小板機能抑制に関しては有効なので、痛み止め用の量と血小板抑制の薬量は随分違います。血栓予防用の薬はバイアスピリンなどの商品名がついています。
また、大腸癌の一部にはアスピリンに反応するものがあり、反応する膜蛋白も研究されています。そのような蛋白を有する癌細胞による大腸癌患者の場合、飲めば寿命を延ばすと言われています。
アスピリンは心筋梗塞を起こされた方の標準薬です。数千人から数万人単位の人を対象とした様々な研究がなされており、発作を小さくし、再発を予防することに関して効果があると思われます。
卒中予防に関しても、微妙ながら一定の効果が期待できます。ただし、薬の強さは弱いので対象を拡げると効果が曖昧になります。特効薬、万能薬というイメージとは違った薬です。
(血小板機能抑制)血小板機能抑制剤は多数あります。チクロピジンやクロピドグレルなどが有名です。血をサラサラにすることの意味はかなり難しく、何をどんな対象者に使うべきか少しずつ検討されている情況です。
個人的には血小板機能の抑制にこだわるのは危険と考えます。必ず限界があるはずです。抗血小板剤を使うのが望ましいことは多くても、必須と言える情況はありえないだろうと推測します。実際に多数の患者さんが出血性の事故を起こされていますし、使っても新たな梗塞を繰り返されます。
血の固まり具合を抑制すれば当然ながら出血の危険度は上がり、出血を気にしすぎると血が固まり過ぎますから、調節が簡単ではありません。また、血小板凝集の度合いは検査できるとしても、実際にどの程度血が出やすく、どこに出血性病変があるか、簡単には検査できません。つまり管理が難しいので、薬として過剰な期待はできないはずです。将来、血管内血栓と血管外への止血との違いを判別し、血栓部分の凝集だけを抑制し、出血部分は抑制しない薬が開発されれば非常に良い薬になると思いますが、現行の薬剤では無理です。したがって血小板凝集抑制だけにこだわらず、それ以外のことも考えるべきです。
(心臓血管病予防)高血圧や糖尿病ならアスピリンを飲むという考え方は、おそらく必要ないと思います。今の時点では、あくまで一度発作を起こされた方が再発を予防する目的や、発作直後に血の固まりを流すイメージで始める薬と考えるべきでしょう。ただし、過去には万人に効きそうだという報告も複数ありましたので、確定的なことは言えません。人種や生活習慣によっては、もしかすると成人一般に使う意味のある薬なのかも知れません。
現在でも心臓の血管にステントと呼ばれる器材を入れられた方は、複数の抗血小板剤が処方されます。これは、かなり明確な評価ができているので、薬が効きにくい体質の方を除き、出血さえ回避できれば効果も期待できます。脳梗塞の再発予防に関しては評価が難しい面があって、一概に言えないように思います。 即効で劇的に効き、完璧に予防し、しかも出血させない抗血小板剤はありません。
(血小板抑制以外の方法)心臓血管病の予防については、面倒ですが様々な治療、生活習慣の改善など、努力と工夫を要する取り組みが必要と思います。それぞれ単独の要因への対策では効果への信頼度に曖昧さを残し、あらゆる薬物療法を含めて決定版がないので、それぞれの人に最適と思える対応を目指すしかないようです。
まず運動は微妙に卒中を減らす傾向があります。また血圧を下げると、一般に心臓血管病が減って寿命が延びると言えます。さらに一般的に言って、塩分の制限も寿命を延ばす効果があります。
血糖値については、慎重にしながらも安定化と正常化が理想です。2型糖尿病患者で寿命を延ばすものに関しては、証明が難しいものの薬の選択など、治療の方法次第では心臓死を減らせると考えます。
コレステロールの治療についても同様で、血管病変の安定化には有効と考えられます。もちろん一般的というのは、つまり例外もあるということです。いずれの対策にも例外はあり、効果は完璧ではありませんが、だからといって何も対策をとらないのは無茶な考え方で、安全性や費用の問題、時間的余裕の問題などを考えながら取り組むべきと思います。
診療所便り平成27年2月分より・・・(2015.02.28up)