アデノウイルス感染症 


―症状― 
夏場を中心に、毎年のようにアデノウイルス感染症が流行します。アデノウイルスにはたくさんの種類がありますが、症状で有名なのは「プール熱」「流行性角結膜炎」「出血性膀胱炎」などです。発熱は通常4〜5日で収まりますが、稀に肺炎、髄膜炎などのために重症化することもあります。もしかすると温水プールが流行に関係しているのかも知れません。また、流行は夏場だけとは限りません。     


インフルエンザのような高熱、喉の痛み、目ヤニなど、激しい症状があれば可能性が高くなりますが、症状がはっきりしない人も少なくありません。感染したら皆同じ症状とは限らず、ある人は高熱を出して寝込み、ある人は鼻水だけということもありえます。 


―のど風邪―
もともとは扁桃腺が腫れることから名前がついたウイルスらしいのですが、必ず扁桃腺が腫れるとは限りません。のどの粘膜がただれるような症状の患者さんの中に、このウイルスの感染者が多いようです。昨年冬から流行した喉風邪の患者さんの中にも、このウイルスに感染していた人がいました。粘膜がただれた後に、長く粘膜刺激による症状や取れにくい痰で悩む人も多いようです。  


プール熱の場合は症状が消えて数日経つまでは出席停止が規則ですし、学校以外でも例えば温泉に行ってはいけないでしょう。プールに入らないから安心とは言えません。手などを介しても感染します。  


―検査の意義―
実は私にはアデノウイルスの検査の意味がよく解りません。簡易診断キットが発売されて診断は簡単になりましたが、当院は今のところキットを使っていません。理由は、@結果が治療方針に大きく影響しない、A通学の規制に必ずしも影響しない、B検査代が高い、などです。検査の意義については医者によって意見が分かれています。  


患者さんの負担を考えると、検査にはそれなりの根拠が必要だと私は考えますが、アデノウイルスの検査の意義は曖昧です。やらなければ治療できない、治療方針が大きく変るという根拠が大事です。確実な意義を提示できないなら、患者さんの負担を増やす検査には積極的になれません。  


通学許可を判定するために検査を希望する方もおられますが、一般に感染症の時には他の人にうつさないためと症状を見る必要から、ウイルスの種類に関係なく休むべきですので、病原体の検査は必須ではありません。検査が陽性であろうとなかろうと感染を疑う症状があれば休むべきです。法律上も検査は必須ではありません。  


「いつまで休むか」の判断には検査が参考になることは確かです。また、症状がはっきりしない人の診断にも便利で、軽症の患者が感染源になるのを防ぐ意味はありますが、そのような方の多くは病院に来られませんので、結局は流行を防ぐ有効な手段にはなりえないと考えます。  


抗生物質投与との関係もあります。アデノウイルス感染症と解れば、無駄な抗生物質の投与を減らせる可能性はあります。今後どれくらいで回復するのかを推定することもできます。しかし、ウイルスが陽性でも細菌の混合感染も多いので、病状が予測通りいくとは限りません。アデノウイルスが陽性だが、引き続く細菌感染によって肺炎になることも珍しくありません。  


―治療との関係―
いっぽうでは、病原体が解らないと不安でしょうがない家族も多く、「なんで原因を調べないんだ!」「原因が解らなければ、治療のしようもないでしょうが!」「調べない病院は頭が古いんじゃないか?」という単純な考えで検査を要求される場合もあります。 


このような時は、調べた場合の結果と調べない場合の結果を正確に予測できるかどうか、患者さんの利益をどう考えるか、根拠のレベル(信頼度)などが問われる実は難しい問題です。原因が何であれ治療法が同じ可能性が極めて高ければ検査は必須ではないとなりますが、例外的な事例でないという判断が必要になります。


病院にとっては収入にもなるので細かいことは言わずに「そりゃあ、絶対に調べないといけませんね。」と、検査を勧める施設も多く、検査するのが一般的かもしれません。


特効薬ができたら検査する意味も高くなってきますが、今のところ根本的な治療法はありませんので、治療は解熱剤などを最小限で処方することになります。 





平成21年2月 診療所便りより