結核の診断 

本年(平成21年)4月頃に、売れっ子の芸能人が結核で入院したと報道されました。驚いた方も多かったと思います。  


結核の症状  
結核は独特な感染症です。症状がないことも多く、あっても風邪と区別がつきません。感染症では常に結核の可能性を考える必要があります。熱が出るとは限りません。テレビドラマの影響で、患者さんの皆が沖田総司のように血を吐くと思っている人もおられますが、血痰が出ることは稀です。でも、熱や寝汗、血痰、体重減少、咳などがあれば、いちおう可能性があることを頭に入れておくべきです。 


結核の患者数 
栄養状態が良ければ免疫が働くので、昔ほど大流行する危険性はないはずですが、あくまで昔と比較してで油断はできません。元気に運動や仕事をしている人でも感染します。今も病院には多くの結核の患者さんが来られています。病院の看護婦さんに集団発生したこともありますし、洗濯業者に発生することもあります。海外で感染することもあります。 


自己判断の問題? 
「自分はアレルギーで咳が出るから、いつもの薬で様子を見る。」といった自己判断は困ります。鼻炎や副鼻腔炎の場合の咳と結核の咳を区別することはできません。結核は自己判断が裏目に出やすい病気です。病院に行くまでもないかと判断するのは個人の自由で、権利であるとも言えますが、こと感染症に限れば自由に任せていたら感染が拡大してしまいます。本人の診断が遅れるだけならまだしも、結果的に周りの人に感染させてしまったら自己責任では済みません。公衆衛生(大勢の人間の健康が優先される分野)の問題です。社会の一員として、自分は感染源にならないという自覚が望まれます。 


診断方法 
結核は診断も簡単ではありません。胸のレントゲン検査で判るのは病状が完成した時点になりますので、昔よりもレントゲン検診の意義が低くなっていますが、怪しい場合には検査が必要です。胸のCT検査は、かなり小さな病変でも捉えることができますが、典型的でない形をとる場合には肺癌や普通の肺炎との区別はできません。 


面倒ですが痰の検査を必要とします。痰を出せない人は胃液を取らせてもらうこともありますし、内視鏡検査を必要とすることもあります。痰の中にたくさんの菌がいる場合は速やかな診断が可能ですが、そんな患者さんは多くはありません。培養して数週間経って菌が見える人がほとんどです。痰の中に結核菌の一部(菌の遺伝子)がある場合には機械にかけて診断が可能ですが、うまく痰が取れて、しかも菌の遺伝子が分解されていないことが条件になります。


ツベルクリン反応も多少の参考にはなりますが、近年開発された血液検査で「結核菌特異蛋白刺激性遊離インターフェロン
γ」という項目を測定すると、より参考になります。   


入院の必要性 
結核=長期入院=仕事がなくなるというイメージがあるかも知れませんが、痰にたくさんの菌が混ざらなければ感染源になる可能性は低く、通常は通院で治療できます。「入院したら大変なので検査は受けない。」と怖がっていると、家族に感染させる結果になります。感染源にならないことを優先して考えるべきです。


結核菌の特徴のひとつですが、菌の周りに保護膜のようなものを作ってシーツに着いた状態で数ヶ月生き残ることがあります。痰が出ている時は注意が必要です。結核に限りませんが、痰が付着したものに他の人が触れる、もしくは排泄した痰が乾いた場合に、ホコリなどといっしょにそれが舞えば、他の人に感染させてしまいますので、感染阻止のための入院が必要になります。 





平成21年6月 診療所便りより