健康番組の信頼度
(健康番組の信頼度)テレビ各局は健康に関する番組を多数放映しています。それは外国でも同じようで、専門家を呼んで講義してもらったり、再現ドラマを使って解説などしているようです。昨年末、そのような番組の信頼度を論じる論文が発表されました(BMJ2014;349:g7346)。
これは恒例のクリスマス特集のジョークでもあったのですが、一読の価値はあります。番組内容の信頼度は3割くらいか?といった評価が出ていました。3割という数字は参考値だと思います。また、日本の番組の評価については分かりません。
(テレビ番組の特性)テレビ番組は視聴者に好まれないといけないので、誇張や省略、心配をあおること、極端な表現などが使われます。本当の専門家は忙しくて出演しにくいので、うがった見方をすれば信頼度不明の自称専門家が呼ばれる傾向があるかもしれません。
また番組形式の講義は、医学分野の解説には適していません。医学は人を対象としているため、道義的な制約があります。道義に反するような人体実験はできませんから、対象を限定し、条件も制約された中で推論する研究が多くなります。数学の証明のように明快な答えは期待できません。但し書きの多い、分かりにくい結論が出ることが普通です。
それをそのまま発表すれば但し書きばかりが続く内容になり、視聴者は理解できないことなってしまいますが、テレビは時間的な制限もあるので、単純で極端な表現が好まれます。その結果として、勘違いが生じやすくなります。
(極端な結論の例)例を示します。例えば、高血圧の方は血圧の薬を飲んで血圧を下げるべきというのは一般的な常識と言えます。しかし、血圧の薬を飲むと眠くなる人や頭痛が出る人は、一定の割合で必ずいます。しかも、数日飲んでも血圧はいっこうに変らないことも珍しくありませんし、数日飲んだだけで寿命が延びるかどうかなど簡単には判定できません。計算の方法次第では寿命が短くなる可能性があるとすら出るでしょう。
すると、このように結論できます。
「高血圧の治療は眠気や頭痛を増やし、寿命を延ばさない。」
「したがって高血圧の治療をする必要はない。塩分を控える意味も不明である。」
「そもそも血圧というのは人間が勝手に決めた概念で、測る意味がない。」
限定された情況では、この結論が間違っているとは言えません。このような理屈で導かれた結語に注目し、断り書きをいっしょに聞かないでいると妙な結論になります。それに飛びつくのは愚かです。
みのもんた氏が人気の頃は、その絶大な影響力に患者さんが振り回されていたと思います。私の母もわざわざ電話してきて、番組の内容を患者さんに勧めろと言っていました。近年やっと彼の呪縛から開放されたかと思いましたが、今度は別なタレントが同様の番組をやっています。きっと今後も次々作られるのでしょう。健康番組は娯楽のひとつと考えてください。
診療所便り 平成27年2月分より・・・(2015.02.28up)