SGLT2阻害剤と心臓病
(作用機序)SGLT2阻害剤は、血糖を尿に排泄させるという発想で生まれた薬です。日本の研究者達が開発の中心を担ったそうで、血液中の糖分が減れば血糖が下がり、糖尿病による合併症を防ぐこともできると思われます。
当院でも処方しており、良く効きます。この系統の薬は、心臓に良さそうだという研究結果が出ました(NEJMoa1504720DOI:10.1056)。
(脱水などの効果) SGLT2阻害剤は、尿を増やす傾向があり、副作用として脱水を生じます。心臓にとって脱水は、一般に負荷を軽くしますので、心不全の発作は減るはずです。発売開始前から期待されたことですし、それが実証されたようです。
また利尿効果以外に糖の排泄の影響で体重を減らす効果もあり、これも心臓への負荷を減らすだろうと期待できます。
その他、心臓への特殊な効果が存在する可能性も否定できません。例えばホルモンや脂質代謝を改善する効果や、心臓の細胞、冠動脈への直接の効果もありえます。
ただし脱水状態は血糖を上げる傾向があり、もともと脱水が進行しやすい糖尿病の方では、一般には避けるべきです。脱水を契機に昏睡状態になる人もおられますし、特に昨今の夏場は誰でも熱中症に陥りそうになるくらい気温が上がりますので、いくら心臓に良くても、考えなしに脱水に向かわせるのは危険です。
当院や、この薬を処方する病院の多くは、薬の量を半分程度から開始したり、隔日程度から試し試し内服してもらうようにしています。体重の変化を見ながら、急速な体重変化がないように、御自分も病院側も管理できる工夫が必要と思います。そして、おそらく夏場は薬量を減らし、冬場は戻すといった調整も必要でしょう。
(脳卒中のリスク) また脱水にからむ問題として、この研究ではあまり協調されていませんでしたが、わずかに脳卒中が増える傾向も見られています。利尿作用のある薬は、一般に脳梗塞を増やす危険性があります。過去に脳卒中を起こされた既往がある方、明らかに脳血管に細い部分があって卒中発症の危険が高いと分かっている方などは、SGLT2阻害剤を安易に処方して良いとは思えません。
(適応) SGLT2阻害剤は上手く調整すれば心臓への負荷を減らし、寿命を延ばす効果も期待できると思われます。 肥満傾向がある方、若くて腎機能が良い方、他の薬で充分な効果が得られていない方は良い適応になります。
他の糖尿病薬との併用も通常は可能です。腎機能が良くない方では思ったほど効果が出ない場合もあるようですが、普通に外来に来られている方なら、全く効かない人は少ないと思います。
皮膚に副作用で発疹が出る方がおられ、数パーセントの方は中止を要します。 さらに、値段が高いことも問題です。新しい薬ですので、しばらくは製薬会社の利益を確保するため、値段が下がらないようです。
夏場は熱中症などの害が出る危険性もあるので、良い適応の人でも用心は必要です。脱水になっても自覚症状はないことが多く、倒れて始めて気がつくこともあります。調節が必要ということを忘れないようにしないといけません。
診療所便り 平成28年1月分より・・・・(2018.01.31up)