PSA 

前立腺癌の患者数は増加傾向にありますが、特異的な症状がありませんので、気がつきにくい病気です。尿の回数が増えたり、尿の出だしが遅くなったり、キレが悪くなったりすることはありますが、それらは前立腺肥大に一般的に見られる症状ですので、症状だけからは何とも言えないことがほとんどです。 


診断は肛門からの触診とPSAという血液検査、エコーやMRIでかなり解り、確定は組織検査によることになります。 PSAは腫瘍マーカー(癌の指標のひとつ)で、「前立腺に特異的な血液中の物質(抗原)」の意味です。血液検査ですぐ解り、診断の参考になります。ただし、癌に特異的な物質とは言えませんので、PSAが正常値を示す前立腺癌も少なくはありませんし、癌でなくても炎症があれば高めの値を示します。値が高いから絶対に癌だと悲観する必要はありません。 


腫瘍マーカーの検査を政府は極端に嫌いますが、皇族に患者さんが出たためか、珍しくPSAだけは認められます。ただし、検査しすぎないように通達は出ています。検査を制限しすぎると、病状が進行した患者さんが増えてしまうと私は考えますが・・・ 前立腺肥大の症状が強い男性、血尿がある方、原因不明の倦怠感、体重減少などがあれば、前立腺癌の可能性を考える必要があります。  


前立腺癌は比較的おとなしい癌で、ホルモン剤の注射や飲み薬でコントロールできる場合もあり、高齢者の場合は手術する必要はないことが多いのですが、やはり転移しないうちに発見したいものです。 


PSAをどれくらいの間隔で検査すれば良いのか検討されていますが、明確な答えはありません。値が低かった人は毎年検査する必要はないというのが現在の標準的な考え方ですので、気にしすぎて毎年のように検査する必要はないと思います。ほとんどの場合は癌の進行に年数を要しますので、値も急激に増加することは少なく、せいぜい数年に1回、特に値が高めになってきた人の場合は年に数回といった使い分けが必要だと勧める先生もいます。   


熊本では、前立腺癌が判明すると1~3月に1回の皮下注射剤(ホルモン療法)や飲み薬のホルモン抑制剤を処方されることが多いようですが、進行度が軽いうちは薬の効果がはっきりしない場合もあります。(JAMA.2008;300(2):173-181.)つまり、観察しても治療しても効果に差がない例があるのです。


でも、実際に観察するには勇気が要ります。 患者さんが、「じゃあ、私は癌なんだけど治療しないで観察するんですか?何もしないなんて、それでも医者ですか!」と怒りたくなる気持ちも解りますので、結局は何かの処方をせざるを得ないようです。
 





診療所便り 平成21年3月より  院長 橋本泰嘉