脂肪肝とNASH 

皆さんはNASHという言葉をご存じでしょうか。日本語では「非アルコール性脂肪肝炎」になります。

@ 病名の由来

この病名は、肝臓の細胞に独特の形で脂肪が溜まることからつけられました。肝細胞は脂肪でふくれあがり、徐々に肝臓が固まり、結局は肝硬変になります。主な原因は栄養のとりすぎですが、炎症反応が関与しているようです。微妙な言い方の違いでNAFLDという状態もあります。

A 患者数

日本人全体で推定では100万人近いと言われています。例外もありますが、ほとんどの場合は脂肪肝の人の中にNASHが含まれています。肥満が強い人に多い傾向がありますが、外見ではスマートに見える人もいます。診断には肝臓の組織検査を要しますので、簡単にはできません。エコー検査などでは脂肪肝のパターンを示さない場合があります。 
診断のために、本当は肝臓の組織を針で突いて取る「生検」が必要ですが、通常は脂肪肝が認められる段階でNASHの可能性ありと考えて対処するのがお勧めです。脂肪肝の人全員に肝生検をするのは危険です。    

B 病気の予後(経過)

海外の報告では、NASHの状態が続けば何割かの方は肝硬変になるようです。代謝に非常に無理がかかった状態を意味していると思われます。動脈硬化も進行しやすく、余病を合併する傾向があります。血液検査が正常であっても、それは内臓が無理して維持しているだけかもしれません。
実際に、脂肪肝の若い患者さんが急速に肝硬変になって亡くなられたことがありましたが、本人が生活の仕方を変えてくれなかったためになんら有効な手を打てませんでした。

C 治療法

食事と運動による生活習慣の改善が必要です。食事の内容は糖尿病に準じたものでよいと思います。脂肪肝の人の中にNASHの人がいますので、脂肪肝と言われたら生活指導を受けるべきだと思います。この病気は10年くらい前は知られていませんでしたので、私も「あなたは脂肪肝ですね。少し用心してください。」のように軽く説明していましたが、脂肪肝をあなどるのは間違いだったようです。   
糖尿病の薬のいくつかがNASHに有効だとする報告が目立つようになってきました。概要を述べれば、微妙に予後を良くしている、もしくは進行を遅らせる効果がありそうだといった印象です。特効薬と言えるものはないと思います。



診療所便りより 平成22年6月30日    院長 橋本泰嘉