iPS細胞の技術に注目が集まっています。単純な操作で細胞の性質を変える技術は、多くの研究者が見逃していた大発見です。 私もそうで、もっと複雑な操作が必要だろうと考えていました。  
網膜や神経組織などを作ることが出来るようになれば、難病の人達の苦痛を和らげることが出来るかも知れません。   
でも技術を海外企業に独占されないこと、癌化しない方法の確立、倫理的な面等を確認していくことなど、課題はたくさんありそうです。海外企業は特許を取って高い値段を設定してくるので、競争に負けないようにしないといけません。


 IMTと動脈硬化     
IMTとは、動脈の膜の厚さのことで、動脈硬化の指標として計測されています。頸部エコー検査を受けられた方は、「壁が厚くなってますね。」と言われたことがあるかも知れません。Iは内膜、Mは中膜を意味し、両者を合わせた厚さが動脈硬化の程度を示唆すると考えられていました。    

IMTで病気を予測できるかは大きな問題です。もしIMTの厚さで卒中や心筋梗塞を予測でき、予後を変えることができるなら、測定に大きな意味があることになります。でも今の時点で、IMTの測定は病気の予防につながるとは必ずしも言えません。そのような統計結果が出ています(JAMA
. 2012;308(8):796-803.)。

この研究では心臓の病気を対象として検討していますが、IMTを測定しても心筋梗塞などの病気の発症を充分に予測できないようです。全く予測できないという意味ではありません。 膜が厚いだけでなく、血管の内部が極端に管が狭くなった人に限れば治療の指標になりますが、残念ながら参考資料程度の意味しかないようです。 

その理由は説明可能です。例えば、一箇所だけ閉塞寸前の血管があり、他は全く正常の状態だったとすると、正常の部分をどれだけ検査しても当然結果は正常ですが、問題の一箇所の病変だけで致命的な閉塞が起こりえます。首の血管は正常だが心臓や脳だけ病変があった場合は、それと同じく病状が検査結果に病気に反映されなくても不思議ではないわけです。 

‘血管年齢’といった言い方で血管の弾力性、血管内皮の状態を推定しようという検査方法もありますが、その測定によって病気の治療が可能になったという段階には至っていないようです。MRIなどの画像技術で、細くなった血管を発見することは可能ですが、システマチックに心筋梗塞を予防するのは費用や効率の関係で現実的ではないようです。脳梗塞、心筋梗塞を起こす前に予測する確実な指標は、現時点ではないと言えます。  

ただし、IMTの測定の際には甲状腺腫瘍をよく見つけますし、血管が裂けそうな危険な状態を発見する場合もありますので、数年毎くらいに検査する意味はあると思います。   



   診療所便りより   (2012.12.01up)