ヘモグロビンA1c
熊本市の特定健診では血糖検査の他に、ヘモグロビンA1c(HbA1c)も測定されます。 この物質は血液を作る蛋白ですが、血糖値を反映するので糖尿病かどうかの判定や、コントロール状態の把握に便利です。
この物質は血液を作るヘモグロビンという蛋白の一部分の割合を意味します。通常、ヘモグロビン蛋白は一定の早さで作られ、ゆっくりと分解されますが、この間に血液中のブドウ糖と結合(糖化)する部分があります。検査では糖化する部分の割合を測定しているわけです。 正常値は5%くらいで、糖尿病の人も条件が揃えば6くらいを目標にしますが、達成するためには相当な努力が必要です。
万能の検査ではありません。貧血の方などでは血液の代謝の早さが変わるので不正確になります。また近年、世界的に値を補正する動きがありましたので、昔の値と合致しないこともあります。もう10年以上、延々と調整を繰り返していますが、未だに施設ごと国ごとに値が一致しないので、海外のデータをそのまま使えません。
血糖値が高いと合併症が進むことが明らかになったため、低ければ低いほど良いと言う先生が多いのですが、年齢や患者さんの理解度、変動の幅、心臓の状態などを見逃すと、危険なことが起こる場合もあります(例J.Am.Coll.Cardiol,2009;
54:422-428)。
病院に通院中の患者さん全体の平均がいくらかを目標にしても意味がありません。糖尿病の病状によって値の意味が変わります。 ある人では
「HbA1cが7%、かなり成績が改善しました。」
ある人では、
「HbA1cが7%もあります。これはいけません。入院を考えて下さい。」と、医者の言うことが全く変わります。あくまで個人個人で、年齢に応じて、仕事内容や病状に応じて目標値が変わるべき指標です。用心しないといけない場合の代表は、高齢者、肝機能や腎機能が悪化した人、狭心症や心不全を持つ人、貧血が強い人、血糖値の平均は高いが農作業などで仕事量の変動が激しい人などです。
熱心な先生ほど値を下げることに熱中し、本来の意味を見失う事例が見受けられます。事故が起きない範囲で可能な限り正常に近い値を維持するというのが本来のHbA1cの意味です。患者さんの能力や体力を無視しても値を下げればいいという意味ではありません。
例えば、「HbA1cが6%台の比較的コントロールが良い人でも、糖尿病でない人と比べたら既に動脈硬化は進んでいる。だから限りなく血糖値を下げるように薬を強めましょう。」という考え方は正しいのですが、状況によっては間違いになります。若い肥満者で軽い薬でもかなり改善できるような人の場合、この文章は正解で他のことを考える必要はあまりありません。逆に高齢で、しかも多量の薬を必要とする人の場合は、HbA1c6%を維持しながら低血糖を起こさないためにカロリー計算能力が必要になりますし、血糖自己測定も望まれ、事実上無理のこともあります。結局は低血糖などの事故を起こしてしまう危険は高く、この文章が当てはまるとは必ずしも言えない、そのような具合です。
親切な病院では糖尿病手帳にHbA1c6%・・・良いコントロール、8%・・・悪い、などと書いてあるかもしれませんが、それは一般的な評価ですので、個々人に当てはまるかどうかは判りません。先生に今の状況で良いのか悪いのか確認をすべきと思います。
また、安易な勘違いも困ります。「ふんふん、血糖値の下がりすぎはヤブ医者のせいね。じゃあ私は医者が何と言おうと我が道を行くわ。絶対に食事療法なんてしない。」などと考えてもらっては病気のコントロールなど出来るはずがありません。
健診でHbA1cを測るようになって、糖尿病を早期に発見できる可能性は上がりました。 ただし何の対処もしなければ意味がありません。早めに対処して糖尿病の悪化を防ぐことができれば、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病(透析)、足の切断(壊疽)を予防し、寝たきりを減らして健康的な生活を維持することが可能になります。