理想的な血圧の薬
鍋物のススメ
寒い時期は鍋物がお勧めです。最近は色々なスープが売られていますが、少し割高ですから「おでんの素」と昆布だしなどで作られたほうがいいかも知れません。味噌鍋やキムチ鍋では刺激や塩分量の問題があるかもしれませんし、水炊きの場合もタレで塩分が多くなりますが、昆布だしを中心に味をつければこれらについて問題ありませんし、カロリーが少なめで繊維やミネラルは豊富に取れますので、生活習慣病全般に良い効果が期待できます。野菜を食べない子供でも鍋の時だけは食べてくれます。もしかすると夕食は1年中鍋料理でいいのかもしれないと思います。
今月は血圧の薬がテーマです。
理想的な血圧の薬
理想的な血圧の薬は1日中同じ血圧を保ち、心不全を改善し、狭心症や血糖値や腎機能に悪影響がない薬だと思います。以前は強い薬がいいと考える先生が多く、急いで血圧を下げないように注意すると反対に怒られたりしていましたが、今は国内の治療指針も私のような考え方になってきましたので、非難されることは少なくなりました。薬も改良されて、患者さんの状態に合うものを選びやすくなってきました。動脈硬化を抑える作用や、心臓が腫れるのを抑える作用などが期待できるものもあります。
代表的な薬にアムロジピンがあります。副作用が少なく、狭心症を誘発しにくく、効果も1日を通して安定していますので使いやすい薬です。ところが全員に合うわけではなく、なかには非常に脈が速くなる人や、むくみが出る人もいますし、血圧もなかなか下がらないことがあります。強さが足りない場合には同じ系統のニフェジピンに切り替えるといいこともありますし、脈拍が速くなる場合にはアゼルニジピンという薬がいいかも知れません。
昔からよく使われている利尿剤は、塩分や水分を排出させるために塩分の摂取量が多い人や、むくみのある方には有効ですが、血糖値や尿酸値を上げ、脱水になりやすい傾向があります。でも心不全がある人の場合は治療の中心になりますし、他の薬の補助で使うと非常に有効なことがあります。
同じ血圧なら脈拍が速くなりすぎないほうが心臓への負担は小さいと思われますが、β−ブロッカーと言われる薬はこの点で優れています。でも、副作用で喘息を起こす人がいますし、心臓の機能を抑えすぎてしまうこともありますので、量の調整には注意しなければなりません。
製薬会社からはAU受容体拮抗剤という薬がさかんに宣伝されています。商品名は、ニューロタン、ブロプレス、ディオバン、ミカルディス、オルメテックなどです。どれも優れた薬で、心臓や腎臓の保護作用があり、寿命を伸ばす効果もかなりあると思われます。欠点は値段が高いことと強さが不足しがちなことです。 治療指針では最初からこの系統の薬を処方していいことになっていますが、最初から処方するのは新し物好きか宣伝に踊らされやすい性格の人かも知れないと感じます。私は、ほとんど同じ作用のACE阻害剤をまず処方して問題がある場合に変更しています。AU受容体拮抗剤とACE阻害剤の効果の差は値段の差ほどはないと思いますので、患者さんの金銭的負担を考えるとACE阻害剤を試してもいいはずだと思うからです。異論のある方もおられますが。
AU受容体拮抗剤とACE阻害剤は、たとえ先生から言われなくても最初は病院の中で飲んで、呼吸が苦しくならないかを確認すべきだと思います。喘息を誘発することがあるからです。他の薬でも原則は病院の中で1回飲んで、急性に起こる副作用がないことを調べるべきではないかと思います。ただ処方する病院は危機管理能力が不足しているのかもしれません。このように書くと血圧の薬は喘息を起こす恐ろしいもののように思われるかもしれませんが、心臓や血管を保護して、寿命を伸ばすためには必要な薬です。
副作用を避けるための原則がいくつかあります。
急激に血圧を下げない
薬の効果を短期間で判定しない
職場や家庭での血圧に応じて調整する
定期的に内蔵への悪影響の有無をチェックする
季節、体調に応じて量を調整する
注意すべき副作用の代表例を挙げます。
咳、喘息の悪化、呼吸苦
むくみ、めまい、頭痛、赤ら顔、脈が速い
痛風が頻発する、血糖値が上がる、脱水
脈が遅い、心機能の悪化、光線過敏症
血圧の薬だけで3種類以上処方されている人がおられますが、処方している医者がどのような理由で3種類にしているかを確認したほうがいいと思います。もしかするとひとつの薬を強いものに変えるだけで、薬を減らせるかもしれません。ただし、本当に3種類以上使わないと目標まで下がらない人も確かにおられますので、勝手に減らすのはよくありません。
良い薬でも万能ではありません。どの薬を選ぶか、また量をどうするか、飲む時間をどうするかは患者さん個人個人に合わせなければなりません。朝の血圧が高い人は朝に薬が効くようにし、逆に夜に高くなる人は、それに合わせて飲む時間を合わせます。また、心不全に効く薬でも体調が悪い時には逆に心機能を悪化させることもありますので、細かい調節が必要だと思います。
ところが、血圧が下がっても上がっても「自分にはこの薬が合ってるから変更しないで下さい。」と、そのまま同じように飲む患者さんがほとんどですし、先生達でも量を調節しようという人は稀です。私は、少なくとも夏場は減らすのが原則ではないかと考えています。
診療所便り 平成18年3月 院長 橋本泰嘉