利尿剤の功罪
血圧の治療の目的で、利尿剤を見直す動きがあります。
利尿剤とは、尿量を増やす薬のことです。適度に飲むと効果が証明されています。尿といっしょに塩分を出させる効果があると思われ、塩分摂取が多い人では特に効果があり、血圧が20〜30下がることもあります。
また利尿剤は値段が安いので、薬代が安くて済むのも良いことです。他の血圧の薬は高いものが多く、患者さんの負担も病院の税金(今は薬価差益がないので、薬が高いと税金が増えるだけです)も増えて、喜ぶのは薬屋さんと税務署だけという傾向があります。
心不全の人では、治療の中心が利尿剤になります。水分が多い状態では、心臓に対する負担を軽減できませんから、利尿を効かせないと呼吸苦がなかなか取れません。 また、利尿剤単独で血圧の薬として使える人は多くないだろうと考えていますが、利尿によって‘レニン’というホルモンが活性化された時に他の血圧の薬を使うと、普段より降圧降下が強く出ることも期待できます。
いっぽうで利尿剤の一般的な副作用としては、脱水を生じて脱力や不整脈を起こし、ホルモンに作用して血糖値を上昇させる場合があります。そのため、少なくとも半年か1年毎に血糖や血液中のミネラルをチェックすべきです。
経験上、最初は目立った効果を期待せずに少量から試したほうが良いと思いますが、あせって加減をしない先生も多いので注意が必要です。 一般的なやり方ではありませんが、1日おきに飲んでもらうこともあります。
塩分の出納を調節している蛋白は、‘〜チャンネル’と呼ばれる蛋白ですが、個人による構造や機能のバリエーションがあるらしく、ホルモンの動態の個人差と相まって利尿剤の効果には非常に差があり、通常なら副作用が出るはずがない量で脱水がひどい可能性があります。
また、現在は糖尿病の患者さんが成人の数人に一人いると考えられるくらい非常に多いので、うっかり利尿剤を使ったがために血糖値に悪影響を与える可能性も常にあります。相当念入りに経過を見ないといけませんが、そのための検査は患者さんの負担になりますし、いったん悪化した血糖値は簡単には下がりませんから、医者の責任です。しかも、血糖値の変動の意味を理解することは極めて難しく、血液検査で上がっていることが分かった時点では手遅れだと思います。この判断を的確にできる先生は、ほとんどいません。
処方する時には「利尿剤は血糖値やミネラルには良くないけれど、今の血圧を放置することは最悪なので、処方します。」のように説明せざるをえません。
利尿剤と血圧の薬を混ぜた薬も発売されています。副作用を打ち消しあう組み合わせで効果はありますが、やはり脱水や代謝異常を起こす危険はありますので、汗が多い時期には調節が必要かも知れません。
副作用をたくさん挙げましたが、利尿剤は上手く使うと非常に有効で安全な薬です。