サッカーのワールドカップが近づいて来ました。今回は地球の反対側で開催されますので、ほとんどの試合は朝に放送されるでしょう。早朝から関連する番組があるかもしれません。大きな大会のたびに、寝不足で体調を壊す方がおられます。睡眠時間を削って応援しても試合結果には影響しませんので、観戦はほどほどにしましょう・・・と申しましても、私も予告に踊らされ、当日になるとしっかり観てしまうのですが。
血圧の指針
(指針の改定2014)血圧の治療に関する日本高血圧学界の指針が改定されました。今年の改定によって、血圧の目標値と基準値が一致し、覚えやすくなりました。若くて合併症(血糖、血管の病気など)がない方の場合、病院で測られる値の目標は140/90未満、御家庭で測られる場合は135/85未満で、御家庭での血圧をより重視していこうと強調されました。 血圧の目標は個人の状態によって違います。数値目標はあくまで参考に過ぎません。急激に下げると具合が悪くなることがありますので、目標値を至上課題と考える必要はありません。
(変更の理由) 指針がなぜ頻繁に変わるのか、一般の人は理解しにくいかもしれません。理由としては、発表される新しい統計結果に応じて改正する必要があることは当然ですが、製薬会社の影響、学会内部での委員達の功名心、派閥争い、あるいは競争の影響もあると思います。各々の医者が研修時代に得たセンスは長く残ります。私の勝手な想像ですが、各自の立場が上になった時に、自分の感覚で指針をいじりたいという欲求があるようです。
したがって最新の知見に基づいて改正されるべき指針が、実は必ず時代遅れになりやすい傾向があります。偉い学者と言っても、経済的、政治的かけ引きをしてしまって揃って間違う可能性はあります。
(表現と責任の問題) 今回の基準値は以前より少し高めになりました。その根拠に関しては疑問点が多々ありますが、過去に製薬会社の思惑に引っ張られて下げすぎたのではないかという反省や、表現の解りにくさや非合理性もありましたので、指標は改定すべきだったとは思います。
いっぽうで仮に血圧140の方の場合も、本当に様子を見るだけで大丈夫とは言えません。若い方の場合は、数年間程度の統計の間に病気を発症するはずはありません。したがって高血圧の害が統計結果に反映されないのですが、数十年後の状態を考えて生活は是正させるべきです。ところが「治療しなくて大丈夫と言われた!だって基準がそうなっている。」と解釈されるのが現実です。生活の改善に意識を向かわせるため、基準の表現に注意が必要と思います。
血圧が低いほうが良いという統計は、高くても良いという統計より圧倒的に多いので、基準値をあげる際には充分な根拠が必要です。甘くすると卒中や心臓病、腎臓病は減らないと思われます。 予防しない結果に誰が責任を持てるのか、道義的にも疑問です。
糖尿病や腎臓病の方は血圧の害が出やすいので、可能なら血圧を相当下げるべきです。でも、これらの病気は症状を自覚できない場合も多く、本当は下げるべきなのに一般の人と同じ目標で良いと誤解される傾向が、今回の改正で助長される懸念もあります。表現や広報の仕方に問題を感じます。
(下げすぎる必要はない) 降圧剤で血液透析患者を減らせる確証はありません。また、脳梗塞を予防できるという確証もありません。脳出血の予防に関しては充分な根拠があると思いますが、その他は微妙な違いとも言えます。その点を問われると、血圧の治療の根拠は不充分ですが、高いまま放置すべきとする根拠もないと思います。
経験上、降圧が不充分な方は脳卒中や心不全を発症する例が多く、経過を見ていて倒れられると、もっと治療を勧めれば良かったと後悔します。 もし害が出なければ、ゆっくり下げて130未満を維持できた方が、臓器や血管障害の予防には有効と思われます。 「血圧の治療は必要ない。」といった意見は極論で、一般的に言って臓器や血管への負担を減らす注意は喚起されるべきで、血圧は低めに抑えたほうが寿命は延びると考えます。 ただし、やみくもに下げすぎる必要はありません。ふらつきなどの害を我慢して下げるべきとは思いません。
診療所便り平成26年6月分より (2014.06.30up)