ホルモン補充療法と乳癌 

15年くらい前は、更年期の女性にホルモンを処方するのが常識である、みたいな論調の論文がたくさん出ていました。乗せられて処方した医者も多かったようです。 

ホルモン補充療法はHRTなどと略されますが、更年期の様々な症状で苦しむ女性にとっては救いになる治療でした。ただし、生来の状態とは異なるホルモン動態を作るわけですから、本来の人間にはないような変化も予想されます。

昨年のアメリカの統計では、ホルモン補充療法の件数が減った頃から乳癌が減少しだしたと報告されていますので、やはり癌と関連性があるかも知れません。ただし副作用の発生率は低いので、全面的に禁止するべきではないと思います。更年期症状の程度次第かも知れません。

当初から、ホルモン補充の副作用として乳癌や心疾患が増加する可能性が指摘されていましたので、私は患者さんから希望されても「安全性が不確実です。」と、お断りしてきました。安全性に何の問題がないと解るには、おそらく数十年かかるだろうから、それまでは積極的にやるべきではないと考えたのです。「ふん、頭が古いのね。」みたいなことを言われたこともありますが、慎重に対処して良かったと思います。良かれと思ってやったことでも、癌を増悪させたら言い訳はできません。 

乳癌は触っても発見しにくいので、健診を受けてもらうしかありません。少なくとも数年毎には検査されたほうが良いと思います。小さい癌は触ってもなかなか解りません。専門家でも触診だけでは見逃すことが結構あると書かれている文献もあります。



診療所便り   平成20年2月より