東日本震災から1年が過ぎようとしています。地震の予知、津波への対応、原発の管理などに多くの問題があったことが解りました。   
「専門家とは、自信たっぷりに間違える人を差す。」誰かの言葉です。でも、起こりうる事象を正確に想定できなければ、専門家たる資格はありません。 想定が間違った場合の害を考えなかったのでしょうか? 
専門家達は、おそらく能力は非常に高いはずですが、倫理面には大きな欠陥があったように思います。想定違いの結果がどうなるか、真摯に考えるべきだったのではないでしょうか。 私も健康管理を専門とする者として、身を引き締めなければなりません。



  EC−ICバイパス   

EC−ICバイパスとは、頭の表面の血管を脳の中の血管につなぐ手術のことです。これにより、脳の血管がつまって脳梗塞を繰り返していた人の脳血流を保てます。実は、私の父もこの治療を受けました。ところが最近、この手術は脳梗塞の再発予防に関して効果がなかったという統計結果が発表されました(JAMA.2011;306(18)2026-2028)。 

この統計は、対象者を
内頚動脈狭窄という病態に限定しています。 内頚動脈は首の血管で、枝分かれして脳に入る根元の部分がよく細くなります。 細くなりうる脳の血管は別の箇所にもありますので、別の部位の狭窄に関しては全く違った結果が出るのかも知れませんが、それにしても意外な結果でした。  

単純に考えれば、詰まりそうな血管があったら、拡げるかバイパスで血を送れば良いような気がしますが、現実は違っていたようです。 おそらく根元の部分と手術でつないだ部分とは距離がありますので、途中にある
線条体動脈などの大事な部分にまで充分な血流を送れないからではないかと思います。いろんな箇所に細い所があると、一箇所のバイパスだけでは効果が出にくいだけかも知れません。

やってみないと、結果は解らないものです。脳外科の先生にとっては想定外だったかも知れません。 

心臓の血管に関しても、心筋梗塞の予防のために事前に血管を拡げるべきか検討した結果、予防的な処置は無効だったという論文もありました。 血管はただのパイプとは違いますので、単純に拡げれば良いという考えは通用しないようです。 また、手術をする場合は当然ながら術の手技が上手いこと、術中に血流を遮断しないこと、空気や血栓を血管の中に飛ばさないことなど、いろんな条件も関係してきます。  

動脈硬化が進んで、病気が明らかになってから治療すれば良い、生活習慣を変えるなど嫌だ、意味がないと考えるのは単純すぎます。 医療技術が進んでいても、対処できないことは多いからです。 動脈硬化の予防は簡単ではありませんが、進行を抑える努力は望まれます。   




 診療所便りより   平成24年3月     (2012.03.31up)