EBMの話 


EBMはエヴィデンス・ベイズド・メディシン「学問的証拠に基づいた医療」という意味の言葉の略語です。統計を取って、治療法に根拠があるか、間違いなく効果があるかを証明し、統計的に効果が明らかなものを優先的に使うといった考え方です。

以前は基幹病院も経験に頼った診療が多く、はっきり言ってレベルに問題がありましたが、今は根拠の乏しい治療をされることは少ないと思います。最近はEBMが流行りですが、今度は表現のうまい論文に乗せられる先生も多いので、EBMも万能ではありません。 

例えば10万人の患者さんに薬を出して、亡くなるはずだった2人のうち1人の患者さんを救うことができた場合も、「死亡率を半分に減らした。」と宣伝できます。でも10万人の中の1人にどの程度の意味があるかは難しい判断になります。

有名な先生でも結構このような魔術に引っかかっていることがあります。「この薬は一番効果がありますから、これに替えましょう。」と言っていても、実は研究の前提条件が違うことを無視していたり、頭の中で単純化しすぎて、断定できないことまで断定していたりする間違いをよく見かけます。優秀な先生ほどそうです。受験勉強式の記憶法のクセが抜けていないように感じます。

統計を作るのが製薬会社である場合が多いのも問題です。ほとんど効かなかった患者さんは統計から排除して、効いた患者さんばかりを集めて結果を出すかも知れません。医者もこれに同調して、間違った結論を出すことがあります。

私はもともと根拠を考えながら治療してきました。そのため、ここ10年で発表された大規模な統計の結果は全て私の予想通りで、自分の治療方針に根拠があったことを確認できました。

しかし困った問題もあります。とうとう自分の日常生活でも根拠を求めるようになりました。例えば「この入浴剤の効果に根拠はあるのか?」「卵ご飯に入っている細菌数のデータは?」など、明らかに考えすぎです。すでにEBM病と言えるかも知れません。 

日常生活はともかく、医療に関しては科学的根拠を無視できません。たくさんの文献を読まなければなりませんが、患者さんのメリットのためにEBMを利用すべきだと思います。



  平成20年1月  診療所便りより