糖尿病性網膜症は減らせる
血糖コントロールをどこまで厳格にすべきか、専門医の間でも議論されています。血糖値を下げ過ぎると「低血糖」状態になって危険ですが、放置すると目や腎臓が悪くなります。眼の合併症に関する新しい統計が発表されました(Diabetes Care 34:2368-2373,2011)。
断言して良いのは、1型糖尿病(免疫の関係で発症する)の場合、厳格に血糖値を下げておくと、合併症は非常に少なくて済むということです。今回の発表でも、網膜症の発生を減らせることが明確に示されていました。
ただし、これは低血糖を気にしないで血糖を下げた試験の結論ではありません。 あくまで低血糖は最小限にとどめ、充分な注意を払いつつ血糖を低いレベルに抑えるという意味です。そのために自分で血糖値を繰り返し測定し、薬の量や食事の量を微調整して初めて実現が可能です。
生活習慣病である2型糖尿病の場合は、分けて考えたほうが良いようです。目標を誤ると死亡率が増えるという発表が複数あります(例BMJ2011;343 d6898)。眼のことだけを心配すると、命を縮める可能性もあります。
これは当然のことで、さまざまな罹病期間を経ており、さまざまな原因があって糖尿病になっている方達に、個別の事情を考えないで強烈な治療をしたら、何事も起こらないほうが不思議です。低血糖による害を起こさない範囲で治療するという大前提を忘れ、数値を下げることに固執してはいけません。でも、実際には過激な治療をしてしまう人がいるのを否定できません。
注意しないといけないのは、これは治療の仕方の問題ですので、どのような話になろうとも、血糖を下げないほうが良いという結論にはなりません。安易に血糖値を高めに設定していては合併症が進行しますので、可能なら低めにすることが望まれます。
そのためには病歴や状態を検討して、慎重に治療する必要があります。でも講演会やテレビなどに登場する扇動者のような人物に影響されて、医者も患者も乗せられる傾向があります。強調した言い方に対しては注意が必要です。何を前提とし、何を根拠に結論を導き、何を訴えたいのか、別な考え方はないのか、そういった確認を忘れてはいけません。
医者の側には責任がありますから、何か扇動された時にも誤解を生じないように、安易な態度、慎重さを欠く判断を控えなければなりません。医者の世界での出世や、上司のご機嫌取り、または病院の経営を考えて宣伝めいた過激な表現内容で、急速なコントロールを誇った先生がいなかったとは思えません。負けん気だけで治療されたら、患者側はたまりません。
正しい治療のためには、医者側にも“心の修練”のようなものが必要と思います。
平成24年1月 診療所便りより (2012.01.31up)
