糖尿病健診の効果
(健診と寿命) 糖尿病健診を受けるべきかどうか・・・そりゃ受けるべきというのが常識です。しかし、なにごとも確認の必要はあります。健診の効果について発表がありました{Ann Intern Med.2015;162(11)765-776}。この発表では、健診を受けても、必ずしも受診者の寿命は延びないという結果でした。
この試験は軽症の糖尿病や、糖尿病の前段階の方を調べた研究です。比較したのは10年間程度で、長期間調べたとは言えませんし、軽症の方を比べたので死者が少なすぎて結果が出なかっただけかも知れません。したがって、この結果で直ちに日本の健診が不要という結論にはならないと思います。
日本糖尿病学界の雑誌に発表される統計では、健診後に指導を受けた方のほうが血糖値は概して下がっており、健診に一定の効果があると思われます。それでも日本式健診で寿命まで本当に延びるのか、やはり確実とは言えません。
(判定、分類の限界)血糖値が高めの場合、必ずしも糖尿病にならない段階(耐糖能障害)であっても血管に障害を来たし、正常者に比べて心臓病が増えることは知られています。もちろん糖尿病になれば心臓病は増えますが、糖尿病でないなら心配ないとは言えないわけで、比較の仕方によっては糖尿病の有無と死亡率の関係を上手く把握できないこともありえます。
また、耐糖能の検査というのは結構体調に左右されます。胃腸の調子に検査薬の吸収の早さは影響され、検査結果が変化します。季節や胃腸の状態など、体調を変化させる要因によって誰でも耐糖能は変化しているはずで、判定が若干は不正確になることは避けられません。
さらに元々糖尿病の診断は、糖尿病性合併症の発症の確率を参考に決められています。でも死に直接つながるのは、糖尿病性合併症よりむしろ動脈硬化による大血管の障害です。よって、糖尿病健診の結果が生命予後に直結しなくてもおかしくはありません。
(健診後のフォロー)健診後のフォローによって血糖値が違うという報告は、多数あります。定期的に受診させたり、ハガキや教室などによって注意を促した場合、血糖値の悪化はかなり軽減できるはずです。教育入院も一般に有効と言われています。ただし、どの程度寿命を延ばせているかは曖昧です。
慢性疾患である糖尿病は、治療を続けるのが容易ではありません。引越しや転職、転勤、あるいは失業や退職などによって治療が中断する人は少なくありませんし、忙しくて通院が疎かになる方が大半と言えるほどです。ほったらかしになる危険性は非常に高いので、現実問題として健診の効果が薄れる可能性も高いと言えます。この点も、健診の効果に影響するはずです。
(大血管障害の予防)近年まで、専門家の多くは血糖コントロールで大血管障害を予防する証明に努めていました。でも今の時点での発表を見るかぎり、血糖コントロールで動脈硬化はそれほど抑制できていないようです。血糖値は糖尿病性合併症のコントロールには大事ですが、動脈硬化にはタバコや血圧、コレステロールなどの影響が強く、これらをコントロールできないと、片手落ちになると思われます。
(健診の意義)意義に関しては、正確に評価すべきです。過大、もしくは過小に評価すると、受診者に無関心や過剰な期待を生じ、不利益を与えかねません。したがって健診の効果について、繰り返し評価し直す姿勢が必要です。でも残念ながら、その視点は欠落しがちなように思えます。
おそらく健診だけでは効果が薄いと思います。血糖値さえ目立った悪化がないなら良いわけではなく、糖尿病の傾向があるなら禁煙し、体重、血圧、血糖、脂質を総て低く保つことが原則です。そうまでしないと、動脈硬化を抑制できないからです。生活の仕方、生き方から変えないと寿命は延びないように思います。つまり健診は必要でしょうが、そもそも健診だけで寿命を延ばすという理屈は成立しないのでしょう。
診療所便り 平成27年8月分より・・・・(2015.09.11up)