今年も熊本市の花火大会は開催されないそうです。あると騒がしいですが、ないと寂しいものです。若い娘さんにとっては浴衣姿に注目が集まる晴れ舞台、その大事な場を提供されないと婚期が遅れる・・・というのはオーバーですが、風情の面では残念です。
大会が中止されたのは、警備の責任を問われた明石市の事件の影響ではないかと思います。管理する側にすれば、責任を追及されるのは嫌でしょう。明石市の場合は、会場への連絡通路に人が殺到する点で最初から危険でした。会場の設定、人の動かし方の計画など、事前の管理意識次第では安全に開催できたのかもしれません。
現在は管理基準が厳しくなっているそうですが、未然に防げなかったのは残念です。



CT検査と発癌性        

(発癌性の有無)
CT検査ではレントゲンの単純撮影より多くの放射線を浴びます。子供時代にCT検査を受けた人が、その後に癌を発症する率が上がるかどうかを調査した報告が発表されています(BMJ2013;346:f2360)。   
この発表はオーストラリアの統計で、CT検査を受けた68万人の方を対象に、その後の癌の発症を調べています。癌の発生は、その中で3000人ほどでしたが、CT検査を受けていない人達と比べると、発生率が24%程度高くなっていたそうです。幼い時期に検査を受けたほうが、より率が高い傾向もあるようです。さらに、検査の回数が1回2回と増えるごとに、癌の発生率も増えていたそうです。
 
CT検査は、そもそも癌の疑いのためにされたのかも知れませんので、間違いなく検査自体に発癌性が強いと断言はできません。また、頭部を打撲して出血が疑われるような緊急時に検査をためらっていては危険で、必要性が高い場合は検査すべきです。ただし、発癌性がありうることを知っておくこと、それを説明する義務、検査後に放置しないことなど、患者と病院双方に一定の注意は望まれます。 

(日本独特の偏重) 
日本は世界中で最もCTの設置台数が多いそうです。ある医学雑誌によればアメリカの倍も設置されていると書かれていました。当然、外国と比べて過剰な検査が施行されているはずで、検査によって発生している癌もありうると考えられます。
イギリスの医学雑誌には、過去にも日本のレントゲン健診による発癌率の増加を扱った論文が掲載されました。我々があまりに無頓着なので、代わりにイギリスが心配してくれたようです。 
この種の統計が日本から出ているのかは知りませんが、少なくとも国家的規模で調査した発表は聞いたことがありません。 

(評価の欠如)
何かの事業をするからには、害と効果を評価しようと考えるべきで、健診や民間の人間ドックも放射線を使う以上、例外にすべきではないはずです。我々は伝統的に検証を嫌う傾向がありますが、病院での検査は私事ではないので、悪い面も含めて評価を怠ってはいけないはずです。
人間ドックのオプションでCTを設定している施設があります。治療目的でやむなくするのでなく、健診目的で発癌性のある検査をして人道的に問題はないのかという疑念もあります。もしかすると、検査する病院も受ける人も大きな誤解をしておられるのかも知れません。 
CTによって発見できる病気はもちろん多いはずですが、それによって癌が少しくらい発生してもいいとは言えません。危険性を明示しないと、説明責任を果たしたとも言えないはずです。検査しないと命の危険がある場合と、なんとなく気になるからの場合とでは分けて考えるべきでしょう。  

(日本の統計の必要性) 
検査すべきか判断する際には、発癌性が実際にどれくらいあるかが重要です。それを説明して了解を得ないと、検査する際の道義的な意味での‘資格’に関わります。世界一の台数を保持している国は、害を知っておく必要があるはずです。   
論文の24%増えるという数字は無視できません。実数では1万人のうち10人程度増えるかどうかという計算になり、もし検査によって助かる人も1万人中に10人程度の場合は検査しないほうが良いと言えるかもしれません。
また、この論文では成人に対する影響は解りませんので、成人は躊躇せず検査してよいかどうかも今のところ何も言えません。 
道義的な面を気にするなら、CTをさかんに検査している施設、または国や学会も何かすべきと思います。CT検査には多数の業者や病院の利害が絡みますので、問題点の洗い出しに際しては失礼ながら、ちょうど原発を評価する際の関連学会と同様の態度が予想されます。ですが、多数の癌患者を発生させてはいけませんので、害を防ごうとする意識は望まれます。
花火大会の事故予防対策とも似ています。あの事故は、なぜ予防できなかったのでしょうか。 




  診療所便り 平成25年8月分より (2013.08.31up)