冠動脈CT検査と費用
冠動脈は心臓の血管で、心臓を冠のように取り巻いています。ここに動脈硬化が起こると、狭心症や心筋梗塞などの発症につながります。高性能CTは冠動脈も立体的に描き出すことができますので、血管が詰まりそうな病変が見つかれば、そこを拡げることによって心筋梗塞の予防も可能です。
ところがCT検査は金銭的には問題があり、検査によって医療費を増やす傾向があるようです(JAMA. 2011;306(19)2158-2159)。 検査が無駄かどうかはともかく、今後は保険でCT検査を認めない傾向が強まるかも知れません。
冠動脈を写す「心臓カテーテル検査」では、血管の内部にワイヤーを入れるため、稀に命に関わる事故が起こります。冠動脈CT検査でも、レントゲンに写すための“造影剤”へのアレルギーで具合が悪くなることはありますが、カテーテル検査に比べるとずっと危険度が下がりますので、緊急性がない患者さんにはCTが勧められます。
病変を見つける精度が高いので、細かい病変を発見することが医療費を増やす結果につながるのかも知れません。それなら、無駄な検査とは言えないでしょう。予防できるのに検査も治療もしないのは愚かなことです。いかに的確に検査し、治療するかが大事ではありますが。
心筋梗塞を発症してしまうと命が助かっても後遺症に苦しむ人が少なくありません。胸が苦しい、息が止まりそうだという不安感を伴う発作を繰り返すような事態は、できれば予防したいものです。費用の問題を無視して良いとは言えませんが、無駄な検査として省略するのもどうかと思います。ただし、やみ雲に検査する病院がないとも言えませんので、対象者を厳密に選ぶ必要はあります。
そもそも心筋梗塞の予防に関しては、単に血管を拡張するだけでは期待した通りの効果は出ない場合があると報告されています。狭い血管は拡げなければならない、拡げれば安心と単純に決められません。部位と狭窄度に応じて、その危険性と効果の統計を参考に判断しなければなりません。
また費用の問題以外に、日本の場合は過剰に検査を施行して放射線を浴びさせているのではないかという指摘が海外からされています。明確な規制がないので、主治医によってはCT検査をオーダーすることに迷いがない人もいます。放射線の害は眼に見えにくいので、イメージしにくいのでしょう。癌を発生させていないという確証はありません。
昨今の世情では、悪化しそうな病変を見逃すと訴訟沙汰もありえますので、どうしても過剰な診療になります。CTのような技術と、法律の規制、統計結果、我々の意識の間にアンバランスな点が多々あり、使いこなせていないと言えます。
診療所便り 平成24年2月分より(2012.02.29up)
