無呼吸の治療         

(無呼吸) 閉塞性呼吸障害は睡眠時無呼吸とも言われ、イビキの激しい方がよく該当する障害です。典型的なケースでは肥満や飲酒、睡眠剤の使用や、のどの形状などが関係して、睡眠時に喉の奥で舌根によって気道が狭くなり、激しくイビキをかいたり、息が止まったりして害が生じる病態です。
呼吸困難を来たすことで睡眠が浅くなり、居眠りをしやすくなりますので事故につながる例が報告されています。呼吸が止まる間に心臓や神経に負担がかかって、心不全や高血圧の増悪などにも関係すると思われます。  

(CPAP) 害を軽減するための対応策がいくつかあり、そのうちの一つ、CPAPと言われる器具を使って呼吸を補助する治療が拡がっており、有効性も報告されています(Lancet2002;359:204-210)。 これはマスクを顔に密着させ、呼吸が止まった時に機械がそれを感知して気圧をかけ、空気を押し込んで呼吸を補助するといった原理です。昼間の眠気が軽くなったという話を、患者さんからよく聞きます。 
ところが、同様な病気である中枢性呼吸障害の方を治療しても、あまり効果がないという報告が出ました(NEJM2015;373:1095-1105)。意外な結果です。中枢性と閉塞性の違いはありますが、呼吸補助は万能ではないようです。


(無呼吸の治療)  無呼吸の治療が上手くいけば、心臓への負荷を減らすはずです。呼吸できない間の血中酸素濃度は、さすがに下がってしまいます。その低酸素状態に対抗して心臓には負担がかかり、睡眠の質や自律神経系、代謝全般にも悪影響があるようです。CPAPで呼吸状態さえ改善すれば、これら全てに良い効果を期待できるように思います。 
でも、実際は機械の性能や顎の形、その方の寝相などに効果は左右され、必ず有効とは限りません。経験上も、血糖値や血圧などが改善せず、生命予後に対する意味がはっきりしない方が多いように感じていました。 治療で代謝動態が変わって体重も減るといった報告を読んだこともありますが、私が担当した患者さんでは目立った改善がありませんでした。機械の性能の向上により、それらが解決するのかも今の時点でははっきりしません。
そもそも減量は難しいことですので、相当な食事制限の努力が必要なのではないかと思います。 本当にCPAPで病気が減り寿命が延びるのか、いろいろな報告があるようですが、確実なところはよく分りません。専門家の解説を読むと積極的にCPAPを導入するように勧めています。でも論拠の信頼性を鑑みると、少し引いて考えたほうが良いかもしれないと個人的には感じています。  
それに、いかに有効としても、国民の数割がマスクをはめて眠るとしたら、異常な社会のような気もします。また、CPAPを使用する際にはかなりの医療費を使いますので、費用が財政にとって負担になります。費用面の効果を確実に証明できた報告は見たことがありません。
可能なら無呼吸症候群にならないよう、飲酒の制限、減量などの生活習慣を改善することが本来は必要です。 おそらくCPAPは、もともと一時的な危機回避手段に過ぎず、例えば運転手など眠気対策が必須の職業では徹底的に管理するが、それ以外の方にも第一に推奨すべき手段ではないはずです。生活習慣の改善によって減量することや、血圧や血糖値の管理などが絶対条件であるべきで、基本に立ち返って考えれば、年数を限って施行させるべきと思えます。 努力不足で改善がない場合には自費で続けていただくくらいの考え方のほうが、倫理的な面からは正当と言えるでしょう。 
生活習慣に関係ない中枢性呼吸障害こそ本来のCPAPの適応・・・私はそのような印象を持っていたのですが、今回の報告を見ると、勘違いだったかも知れません。正直なところ、この治療法に関してはよく分らなくなりました。機械の性能、費用、効果を再検討すべきと思います。  


  診療所便り 平成28年2月分より・・・(2016.02.29)up