血圧の変動の意味
血圧は非常に変動します。病院で測定すると、家の値より30くらい上がる人も珍しくありませんし、朝起きてすぐや動いた後なども上がります。逆にノンビリした時や、汗を流した後は下がります。血圧が変動すると、このまま倒れるのではないかと気になります。実際、温泉に長くつかった人が倒れる事故はよく起こります。温泉街で過去に死人が出ていない宿は一軒もないという話を聞いたこともあります。
血圧の変動をもたらすものが何かは一概には言えません。単に緊張されるせいと思える方もおられれば、心臓の機能低下が関係している場合もあります。動脈硬化の結果として変動が強くなっているのでは?と、疑われる患者もおられます。血圧は様々なホルモンや神経反射で調節されていますので、細かい変化の理由を確定することは難しいと思います。
では変動しても気にしなくてよいのでしょうか? 運動した時に血圧が上がる人と、そうでない人を比べた統計が発表されました(Circulation. 2010;121:2109-2116)。 普段は血圧が低いけれども運動中に180くらいに上がる人は、脳や心臓の病気を起こす確率が高いそうです。
これは運動しないほうがよいという結論ではありません。運動中に血圧が上がる人でも、運動したほうが長期的な経過は良かったという統計もありますので、運動の内容や時間などを調整して血圧の変動が少ないようにすれば問題なく、むしろ積極的に運動すべきと思います。
病院で血圧が上がる白衣高血圧の人も、血管の病気を起こしやすいと言われています。理由は解りません。病院で上がる人は普段も始終高くなっているから、平均しても高血圧だからと思えますし、変化すること自体が血管に障害をもたらしている可能性もあります。詳細は不明です。
血圧の変動が激しい方の実際の治療となると、非常にやっかいになります。 病院での値が参考になりませんし、高い時を参考にして処方すると、下げすぎてフラツキが出る場合もあります。したがって、自宅で血圧を測ってもらいながら、ゆっくり効いて血圧を下げすぎないタイプの薬を使うべきと思われます。
「私は薬を飲むと下がりすぎるから・・」と放置すれば、動脈硬化は進行するでしょう。ふらつきなどの副作用を我慢してまで血圧を下げないといけないとは思えませんが、副作用が出ないギリギリのレベルまで血圧を下げれば、心臓や腎臓を守り、血管の病気を予防できるはずです。ちょっとでも血圧が高ければ、ほぼ確実に血圧の薬によって寿命が延びると言えます。
血圧はいつも高い人だけが治療を要するというのは間違いで、何かのきっかけで高いことがあるなら、常に高いわけではなくても治療を要すると考えるべきでしょう。
平成22年9月 診療所便りより