慢性腎臓病の血圧管理
(慢性腎臓病という概念) 慢性腎臓病とは、腎機能低下や腎臓の障害(尿検査異常)が続いた場合を意味しますが、その段階から回復不能な腎不全状態に移行させない対策が望まれます。対策を講じるために、慢性腎臓病という言い方をしようと考えているようです。でも、慢性腎臓病の概念を作った効果(透析を減らす、寿命を延ばす)は、今のところ分かりません。
腎機能を守るための対策として、血圧を下げることは推奨されています。ただ、その目標値が曖昧でした。そこで強力に血圧を下げた場合の効果を検証した論文が発表されました(JAMA Intern Med2014;174(99:1442-1449)。
その結論は、意外にも血圧を無理に下げすぎると成績が良くないというものでした。注意していただきたいのは、これは「血圧を下げない方が良い」という意味ではなく、強烈に下げる必要はないという意味です。
(血圧を下げるべきか)血圧を高く保つべきとは思えません。慢性腎臓病と言われようと言われまいと、一般に血圧は低めにすべきでしょう。具体的な目標値は、おそらく個々の患者さんによって違うと思います。血圧の薬を使って血圧をコントロールすると、一般に尿蛋白の量が減る傾向があり、負荷を減らしているだろうと想像されます。それで腎不全を防ぐ効果があるか分からない点が問題ですが、わざわざ血圧を高く保つべきとは思えません。血圧が高いと脳や心臓の病気にも悪影響が予想されます。血圧は上がりすぎないように、コントロールすべきと考えます。
(薬の選択)一般的にACE阻害剤、ARBと分類される薬を使うことが推奨されています。これらは腎臓を保護する効果があると言われているからです。ただし、副作用で咳が出る方や、喘息のような激しい過敏症を起こされる方もおられるので、最初は病院内で試す必要があります。
また、薬が腎機能を改善する効果は証明されていません。逆に降圧剤を使うと腎機能が一時的に悪化する傾向はあります。ほとんどは軽度と言われていますが、中には本当に害がある場合もあり、安易には考えない方が良いと思います。腎機能を確認し、段階的に増量することは原則です。
血圧を下げすぎないという注意は、実は以前から知られていました。でも一時期、血圧を100以下までも下げるべきと強調する意見もありました。降圧薬の開発の際に、薬を追加するほど尿蛋白が減るといった内容の発表があって、それに引っ張られて過激な治療を推奨してしまったように思います。尿蛋白が減っても、透析を遅らせるか寿命が延びないなら意義は低いと思います。
(腎不全の予防、延命効果) 慢性腎臓病という言い方はまだ歴史が浅く、対策によって血液透析を減らす方法、寿命を延ばす方法が確立できるかというと懐疑的に思えます。もっと前の、腎機能が正常の段階の生活が重要かも知れません。健康人が塩分を制限すると、寿命が延びる効果は証明されているからです。慢性腎臓病という概念をわざわざ設けた意味は、腎不全を予防できて始めて成立します。対策は色々試されているが、残念ながら実際の臨床的根拠は不明です。腎不全にならないために、若いうちから食事内容に気をつけるべきではないかと思いますが、具体的に蛋白質はどの程度、塩分はどの程度が最適かといった細かい点について、実証に基づく指針はないようです。
診療所便り 平成26年12月分より・・・2014.12.31up)