閉塞性動脈硬化症 


閉塞性動脈硬化症とは
  
動脈硬化によって血管が細くなり、主に足の血流不全を起こす病気を閉塞性動脈硬化症といいます。カルテには慢性動脈閉塞症と書かれていることもあります。血管が細くならない人はほとんどいませんので、珍しい病気ではありません。
末梢動脈の病気のほとんどを占めますが、多いのは腹部から足の付け根付近の血管が細くなるケースで、例えば図のように、本来流れてほしい血管が詰まった場合は、歩くと足が痛くなり休むと楽になる現象や、足が冷たい、色がおかしいなどの症状が出る場合もあります。「壊疽」の原因になることもあります。
この病気になられた方が御自分の足をご覧になる時は、情けないような不安げな表情をされます。壊疽になるかな?と考えたら、私でも平静でおられないでしょう。お気持ちは解る気がします。 


治療方針 
この病気は最近まで治療指針がはっきりしませんでした。壊疽の治療が絡む関係で専門家は外科系の先生でしたが、担当者の興味のあるなしで対応が分かれ、直ぐバイパス手術を受ける方、逆に色が悪くなるほど重症なのに放置されるなど、根拠の乏しい判断で個別に治療されている印象がありました。あくまで個人的印象ですが、今もその傾向があります。私自身が「この方はステントの対象か?バイパスか?薬だけが良いのか?」と、明確に断言できないこともよくあります。  
学会でも手術や検査が強調されていましたが、バランスとしては正しくないと思います。病気の予後が良くないので予防が大事です。 
もし外科的治療が必須であるという根拠があれば、治療を急ぐべきです。しかし、外科的治療で後遺症を残すケースもないわけではありませんし、一般に血管が詰まった時は他の血管に血流が回って症状が自然に軽快する傾向もありますので、症状の出方や閉塞の場所などを考えて、手術適応は厳格に判断すべきです。 
薬物で治療したために外科の担当医と喧嘩になったことが何度もありますが、外科処置なしで回復する例は意外に多く、専門家の意見も当てにはなりません。 
末梢血管のエコーが判断の決め手になるように個人的には考えますが、内部の圧と血流量の変化を推測する職人的な腕が必要で、治療法の判断が分かれる一因になっています。 血管造影やMRI、サーモグラフィー、ABIでは解像力や診断力に限界があり、細かいバイパス血流が出るかどうかの判断は難しいようです。 


タバコとの関係  
タバコを吸う方には若いうちから病気が出る傾向があります。タバコの成分が強力な動脈硬化の要因だからと考えられます。ただし残念ながら、禁煙によってどれくらい病気が減るかの明確な統計を知りません。心筋梗塞などに関しては禁煙の効果を示した多くの報告がありますが、この病気はいつも検討が省略されています。  


代謝との関係    
糖尿病の方も重症患者の中によく見かけます。血糖コントロールによって病気が減るか繰り返し調査されていますが、少なくとも数年間で明確な効果は出ないようです。ただ感染予防等のことをも考えて、閉塞性動脈硬化症があれば一般に血糖値の管理を強化するよう勧められています。  
コレステロールの治療指針には、この病気である場合は治療を強化するように書かれていますが、異論もあります。一般には値が高い場合は治療を開始しますが、その根拠に関しては統計上必ずしも証明されておらず、曖昧です。  


病気の予後 
心臓や脳の血管の病気とは少し進行の仕方が違いますが、足の血管が細い人の多くは他の血管にも問題があります。その関係か予後が良くありません。閉塞性動脈硬化症で治療をしていた方が心筋梗塞や脳卒中を起こすというのは非常によく経験することです。
大腸癌と死亡率が同じという統計もあります。癌なみの病気であるという認識が必要です。血管が詰まったら手術すればいい、という考え方が専門家の間にもあったのかもしれませんが、予防に重点を置くべきと思います。  


予防法  
具体的な予防法はどのようなものでしょうか? 残念ながら確定的なことを言えません。禁煙は必須と思います。
糖尿病患者さんの場合は血糖値を可能な限り正常に近づけることが望まれますが、低血糖を起こさないことや、網膜症の状況などを総合して対応する必要があります。
血糖値、血圧、コレステロールなどは軽い段階から治療することが望まれます。軽い異常でも、長期間続けば影響は必ずあるはずです。昨今、コレステロールの治療はしないほうが良いのでは?という意見も出ていますが、足を切るか切らないかという瀬戸際でコレステロールを無視するのは勇気が要ります。 
長時間にわたって正座など特定の姿勢をとることも、もしかすると病気に影響しているのではないかと疑われる症例もありますが、明確な統計はないようです。 
食事や運動などの「生活習慣」を適正化する必要はあります。ただし、いずれも本当の意味での根拠には欠けています。  


薬の治療
  
心筋梗塞と違って、薬の効果が充分に証明されていません。言い方はよくありませんが、学会も脳や心臓の血管のことばかり注目して、視点がずれていたのかも知れません。研究試験も基準もない状況が長く続きました。したがって確実な意見とは言えませんが、治療で使う薬は症状を和らげるだけでなく、時間をかせぐ間に血流の改善を生み、進行を阻止する効果もあると個人的には思います。 
治療薬は血管を拡げる、血の固まり具合を調整する作用がある薬で、たくさんの種類があります。どれもふらつきやほてりなどの副作用の発生がありえますが、比較的軽い程度ですむ場合が多いようです。  


細胞移植  
この病気には血管のもとになる細胞を埋め込むと有効であることが知られています。ただし、すぐ走れるほど改善するわけではありませんので、予防の必要がないと考えるべきではありません。   





診療所便り 平成22年11月分より