ABIと血管年齢
ABIとは
ABIは、腕と足の血圧の差を測る検査です。もし手足の血圧に差があれば、動脈硬化で血管が細くなっていると推定されます。脈が伝わる早さも同時に測定すると、血管の硬さも判定できます。「血管年齢」として判定された経験がある方も多いでしょう。 機械がいろんなメーカーから発売され、この10年で急速に広まりましたが、理屈は昔からあって、大学病院では30年前くらいから使われていました。ただし、臨床的な意義が曖昧でした。
抗血小板剤の効果
ABIに異常がある人に血をサラサラにする薬を飲んでもらって、寿命が延びるかを調べた研究があります(JAMA.2010;303(9):841-848)。動脈硬化がある人を選んで治療すれば、病気が予防できて寿命が延びる可能性があるからです。しかし結果は、寿命に関しては効果を認めないというものでした。
効果がなかった理由として考えられるのは、いったん動脈硬化ができあがると薬で元に戻すのが難しいためかも知れませんし、単に薬が弱かったからかもしれません。血をサラサラにする薬は、強すぎると出血を起こしますので強めるのには限界があります。血管拡張作用を有する他の薬の場合も、症状を改善する効果はあるようですが、寿命に関しての効果は解っていません。
ABIの意味
@血管の悪い状態を確認する。
A手術適応の参考
BABIを改善する方法は確立していない。
ご自分の悪い状況を知らないでおられる人に「あなたの血管年齢はこれくらいです。」と提示することで治療の意欲がわく場合は意味があります。
血管が細くなる「閉塞性動脈硬化症」で手術する前には治療の参考のために検査が望まれます。でも不可欠とは言えません。診断には結局は血管の画像が必要です。
ABIの値が悪くても症状がない場合には通常は治療をしませんが、症状と所見が合致すれば治療の根拠になります。
ABIや血管年齢を改善する方法は確立していないと思います。ABIが改善したら寿命も延びる、もしくは血圧やコレステロールが一定のままでABIを改善させ、寿命が延びたというデータが出れば意味が生じるでしょう。
ABIに異常があった場合
@動脈硬化の危険因子の治療を始める
Aお腹の血管の評価
B脳や心臓の血管の評価
ABIに異常がある、もしくは血管年齢が高い場合は、動脈硬化の原因となる危険因子の値を参考に、各々の因子を治療することを考えるべきです。ABI自体は今のところ、指標にはなりません。
ABIの結果が非常に悪ければ、お腹の奥の血管に外科的な治療が望まれることがあります。エコーの検査くらいは受けられたほうが良いでしょう。 また、脳や心臓の血管もやられている可能性を考えて、脳や心臓も検査したほうが良いと思います。 ただし、これらの検査はABIが正常なら不要と言えるわけではありません。
動脈硬化の予防
@ABIが正常でも動脈硬化は否定できない
A危険因子には用心
結果がよくても動脈硬化がないとは言えません。ABIで病状が悪くなる前の状況は解りませんので、血圧や血糖値などの何かが高ければ治療は必要です。動脈硬化する前に予防するしかないからです。
血管にとって害になるものを順に言えば、タバコ、高血糖、高血圧、高コレステロール、ストレスだと思います。
今年の春、研修時代に私を直接指導していただいた先輩が亡くなられました。動脈瘤が破裂したそうです。動脈瘤ができる原因は色々ありますが、タバコを吸っておられましたので、それによって動脈が傷んでいた関係もあったと思います。
冗談混じりに、「ストレスがたまらないように、タバコば吸わんといかん。」と話されていましたが、残念なことでした。冗談ではすまないようです。
平成22年6月30日 診療所便りより