具合が悪い時の対処法      平成20年12月18日  


ぐあいが悪い時は、ご飯を食べていなくても血糖値が高くなることが多くなります。その一方で、食事が入らないために血糖値が下がる可能性も高くなりますので、正確な予測が難しくなります。  

原因や治療法によって対処の仕方が違いますが、一般の本には解説してないので、ここでまとめておきます。




A・食事が摂れない時の対処法、考え方    


@吐き気への対処は点滴が原則と考える
 

食事をしなくても胃液は出ています。吐き気がある場合に、水分を大量に飲もうとすると、胃液といっしょになって胃の中がいっぱいになり、吐くしかないこともありえます。このような時には日本の事情を考えると、点滴が原則です。


持病がない人は、まずは観察をお勧めしますが、持病がある人は安全性を最優先して点滴を考えるべきです。外国の本では病院を受けないで済む方法を中心に解説してありますので勘違いした日本の学者達も同じようなことを書いていますが、日本の場合は簡単に診療を受けられますから、点滴を念頭におくべきです。我慢する必要はありません。もちろん極端な山間部など、自力で対処する必要がる場合は別です。  


吐き気が多少あっても、なんとか水分を飲めそうならば、回数を多く、一回の飲む量を減らすことで吐かずに飲めるかもしれません。コップ半分程度が目安になります。でも、これは症状が軽く若い、体力充分な方の場合の例外的な方法だと思います。 


Aスポーツ飲料(ポカリスウェットなど)について
スポーツドリンクは糖を含みますので、糖尿病への悪影響が予想されます。糖分がかなり含まれているので、血糖が上がって脱水が進むからです。ただし、ミネラル補給の意味はありますので、血糖値を確認しながらなら、いい飲み物になると思います。


最も望ましいのは水ですが、長期間にわたって水ばかりだとミネラルのバランスが狂いますので、病院と相談しながら飲んだほうがいいでしょう。  


B原因別の対処法 
#1 ノロ、ロタウイルスが原因なら点滴 
吐き気の原因がはっきりしている場合は対処法も決ってきます。ノロウイルス、ロタウイルスというのは吐き気が強くなりやすい感染性胃腸炎のウイルスです。これらを子供さんからもらったような場合には、何を飲むのも難しいかも知れません。我慢せずに点滴を受けたほうが利口です。 


#2 原因不明 
ウイルスが原因と思っていたら、実は腸閉塞で胃の内容が流れなくて吐いていたということもありえますので、原因がはっきりしない場合には病院の受診が必要です。 


#3 食事の進め方 
腸炎がよくなった後の食事の摂り方にも原則があります。食欲がない間は水、お茶、ジュース、スープ類だけに止めるのが原則です。「お粥がいいのでは?」というのは昔からの考え方ですが、お粥も結構胃腸の負担になります。お腹が減って減ってしょうがないくらいまで回復してから麺類、そしてお粥、普通の食事へと段階的に進めるべきです。  


C薬の使い方  
吐き気止めの飲み薬を使ってみるのも対処法のひとつです。でも、これを水といっしょに飲むと吐いてしまって何にもならないことがあります。吐き気止めは比較的溶けやすい薬が多いので、口の中で溶かしてツバといっしょに飲み込んで、薬の一部が腸に流れてくれるのを待つのが良い方法です。吐き気止めの中には、動悸が出るもの、血糖値を上げるもの、妊婦さんには使えないものもありますので注意してください。




B・熱への対処法、考え方  


@熱を下げないのが原則
 
熱によって水分も摂れないことが明らかな場合を除いて、熱を下げないのが原則です。理由は@熱が高いほうが回復が早い。A解熱剤は胃腸に害を及ぼす、からです。熱がある時は病原体の活動が抑えられますので、安易に熱を下げないほうが回復が早い考えられています。また、解熱剤が弱った胃腸に作用して出血が始まり、より重症になったりすることもあります。 


でも、これはあくまで一般的な原則で、症状にもよります。試しに一回だけ解熱してみて水分が摂れることもありますので、病院と相談して原則と違う対処を取ることも可能です。


A水分を増やす
 
熱があるときに最も怖いのは脱水の進行です。熱で内臓に害が出たり脳に後遺症が残ることはありませんが、脱水は命に関わることがあります。腎臓や心臓に持病があって水分制限しないといけない場合を除いて、皮膚から出て行く水分が増えることを考えて、普段より水分量を増やすのが原則です。 


したがって、「水を飲むのは難しいかな?」と思えたら、迷わず点滴を受けるべきです。もし「大丈夫、充分飲める」と判断できたら、自宅で水分を摂ることで対処も可能です。具体的な摂り方は、一回の量を少なめにして吐き気が強まるかどうかを確認しながら、回数をこなすことで量を確保するのが原則です。  




C・下痢の時の対処法、考え方  


@脱水を避ける

下痢も吐き気と同じく、脱水をきたす原因になります。脱水にならないように、何らかの手段で水分を補わないと、特に嘔気を伴う場合などは非常に危険です。 


A下痢を止めない 
下痢は止めないのが原則です。下痢は何らかの病原体が腸の中で増えて発生することが多いので、病原体を速やかに排泄するために止めないのが原則です。止めると、より重症になる可能性があります。 でも、そうなると脱水の進行は早くなります。吐き気があって水分を摂れない場合は、もう点滴を受けるしかありません。  


B痛み止めを使わない 
下痢止めを使えないので、吐き気止め、乳酸菌製剤(整腸剤)、胃薬が中心になります。明らかに食中毒が疑われる場合は、抗菌剤が加えられることもあります。 


仮に痛みがあっても、通常お腹の痛み止めは使わないほうが安全です。これは、お腹の痛み止め(ブスコパンという商品名)が腸の動きを止めて、病原体を体内に止めてしまいやすいためです。下痢がなければ、そのような心配は少なくなりますが、鎮痛剤は一般に粘膜に害を及ぼすので、重症化する原因になりかねません。 単なる下痢ではなく、腸管の断裂、破裂を伴う場合や、同時に膵炎、胆石発作などを伴う特殊な場合を除いては、鎮痛剤を使うことはないと考えて下さい。   




D・風邪症状の時の対処法、考え方
 


@風邪薬は必要最小限 
薬に依存しない風邪症状があるときに、これは肺炎、これは風邪であると断言することは誰にもできません。風邪薬の処方の意義は「とりあえず風邪薬で症状を少し抑えて、注意しながら観察」という意味です。「薬でいっきに治療して、仕事を休まない」という治療を勧めているわけではありません。


お年寄りの方に風邪症状があった後で肺の検査をすると、高い確率で肺炎を起こしています。肺炎だから抗生物質が必ず必要とは言えませんが、肺炎は意外に多いものです。安静にすることが原則で、その後に肺炎を疑う所見が出るかどうかを観察するべきです。 重症化しなければ、肺炎でも特別な治療は必要ありません。でも、強力な風邪薬で症状を押さえ込んでしまうと、本当の治療を開始する判断が遅れてしまいます。 


A抗生物質は確実に使う 
抗生物質は必要な量を、定められた飲み方で使わないと、効果が解りにくいばかりか、耐性菌を増やしてしまいます。「良くなった気がするから、途中で止めてしまおう」と考えるのは、後で害を生む考え方です。朝一回と言われていたけど、朝昼晩に分けてみようと自己判断すると、効かないこともあります。副作用がなければ、指示通りに飲んでください。副作用が疑われる時は、遠慮せずに病院に連絡して下さい。 


B風邪薬は頓服で 
逆に、風邪薬は最小限で使うことが原則です。症状を抑えすぎて重症化したことを見逃すことがないように、症状がひどいときに仕方なく使うくらいの制限が望まれます。  


昔は風邪薬を朝昼晩の3回飲むのが当たり前でした。飲まないと怒られていました。でも、それは間違っています。症状を抑え過ぎたために重症化していることを見逃したりしてはいけません。


C去痰剤 去痰薬(痰を出しやすくする薬)が風邪薬と分けて処方された場合には、なるべく指示通りに飲んだほうがいいと思います。去痰薬は効き目が解りにくいことが多く、しっかり飲んで初めて効果が出る傾向があります。




E・入院の判断、病院受診の判断   


@脱水 
脱水が進んだ場合は入院しての点滴が原則です。したがって、飲めた水分の量が明らかに少ないと思われたら、原則として病院を受けるつもりでおられたほうがいいでしょう。 


A症状が続く  
脱水の程度が軽いと思われても、熱が引かない、吐き気や下痢が続く場合には悪化が予想されます。入院は必要なくても外来または往診で点滴を受けたほうが良いかもしれません。念のため病院と相談くらいはすべきです。  


B血糖値が不明  
血糖値を確認できない場合も病院との相談を考えるべきです。少々血糖値が上がっても症状はないかも知れません。徐々に意識が低下していくこともありますので、相談くらいはしたほうがいいでしょう。




F・食事療法だけで治療している人の注意点 
 
(ポイント)
#1 脱水にならないように水分を増やす  
#2 スポーツドリンクは適さない 
 
#3 血糖値の確認をする 
 
#4 糖をおぎなう必要はない    


脱水について 食事が充分に取れなければ、脱水にならないように水分の補給に勤めて下さい。胃腸炎などで下痢が激しい時、吐き気が強くて水分が摂れない時は脱水が起こります。持病がない人でも苦しいですが、糖尿病の患者さんの場合は、いっきに状態が悪化することを考えないといけません。 


感染について風邪や肺炎、気管支炎などの感染症の場合、血糖値は通常より高くなる可能性が高く、糖尿病の薬を使っている人以外は、食事を取れない状態がよほど続かないかぎり下がりすぎることはないので、糖分を取る必要はありません。


肺炎に限らず、さまざまな感染症の時には、糖尿病のために思いがけずバイキンの勢いが強くなって、重症になることがあります。 また、感染が引き金になって、さらに血糖値が高くなり、ひどい場合は糖尿病性昏睡になりえます。これは意外にも普段の血糖値が正常に近いくらいにコントロールできていた人でも可能性があります。ですから、いくら普段の状態が良くても、重症化することと血糖が上がることの可能性を忘れず、症状と血糖値を見守って下さい。




G・オイグルコン、アマリール、グルファスト等で治療されている人の注意点 
 
(ポイント)
#1 食事できなければ、その食事分の薬は飲まない。
#2 食欲低下だけなら、とりあえず薬の量を半分に。
#3 食欲低下が2〜3食も続けば、入院を念頭に。  
#4 下痢の場合も、とりあえず薬の量を半分に  
#5 脱水にならないように  
#6 スポーツドリンクは適さない  
#7 血糖値の確認  


オイグルコンに代表されるお薬は、膵臓を刺激してインスリンを出し血糖値を下げます。このため、食事が入らない状態で薬だけを飲んでいると、激しい低血糖を起こすことがあります。逆にいきなり中止した時は、血糖値が非常に高くなってコントロールできなくなる可能性もありますので、飲むべきかどうかの判断が難しくなります。


ポイントにまとめたやり方は、経験豊かな先生達の勧める方法で参考になりますが、万全な対処法ではありません。血糖値や脱水の程度の確認をしないで、とりあえずの対処法を続けると失敗します。


今までの糖尿病の指導書は、この一回だけの対処法をくどく説明しすぎて、安全性を軽視していた点が問題です。状況をよく把握できないなら、迷わず病院を受診したほうが安全です。食欲低下が何日も続くから、その間ずっと薬を減らしてました、というのは間違ったやり方で、勘違いしてはいけません。1食だけ取れない時には、一回だけ薬を減らしては?でも何か解らなければ病院に、という意味です。 


下痢の場合は、食事からの糖分の吸収も悪くなる可能性がありますので、とりあえず薬の量を減らすことを考えてください。ただし、糖分は割に吸収が良くて、あまり血糖値に影響しないことがほとんどですから、血糖値が下がっていないことを確認できるなら減らさなくても結構です。血糖値が低い場合は、ブドウ糖を含むスポーツドリンクはいい飲み物になりますが、血糖値を確認できない場合は、危険な飲み物になります。




H・ボグリボース、アカルボース、メルビン、グリコラン、メデット、アクトス等で治療されている人の注意点  
(ポイント)
#1 肝臓の働きを病院で検査してもらう。
 
#2 肝臓に問題がなく、下痢もなければ薬は続行。
#3 下痢すれば、薬はいったん中止。  
#5 脱水にならないように  
#6 スポーツドリンクは適さない  
#7 血糖値の確認
  


ベイスン、アクトスなどの薬はおだやかな薬で、血糖の下がりすぎをあまり心配しなくていい薬です。そのかわり、まれに肝臓や腎臓に障害をきたす場合があります。それが風邪の症状と区別できないことがありますので、これらの薬を飲まれている方は血液検査をおこたってはいけません。 


さらに忘れていけないのは、ベイスン、グルコバイ、ボグリボースなどは糖の吸収を遅らせる薬ですので、腸の中が発酵しやすいといいますか、菌が繁殖しやすい状態になりますので、下痢が長引きやすい傾向があることです。下痢が始まったら、とりあえずこれらの薬だけは中止が必要になります。下痢が良くなれば、また再開すべきですが、一気に1日3回は無理かも知れませんので、医師と相談して決めてください。




I・インスリンで治療されている人  
(ポイント)
#1 食事が入らなくてもインスリンを中止しないこと
 
#2 症状を病院に連絡して、インスリンの量を調節
#3 尿糖や血糖を測定する。  


インスリンを中止しない理由は、具合が悪い時こそ血糖値が高い傾向があるからです。でも、全く食事が摂れない場合に、いつもの食事量に合わせたインスリン量では低血糖を起こさないとも限りません。病院と相談しながらインスリンの量を調節すべきです。


細かい連絡が面倒なら、病院に行っていろいろ調節してもらうほうが無難でしょう。高齢者の場合は、ちょっとでも食欲の変化があったら入院を念頭に対処すべきだと思いますが、血糖自己測定を頻繁にできる若い方の場合は、在宅でも病院と同じような治療をすることが可能です。   


食事が摂れるかどうか解らないが病院を受診できないという状況では、速効型〜超速効型インスリンをお使いの患者さんの場合は、5〜6時間毎に5〜6単位のインスリンを皮下注射して、血糖値を測定する方法が一般的です。通常、食事を摂らない間に必要なインスリンの量は1時間に0.5〜1.5単位くらいのことが多いので、ほとんどの場合はこの方法で血糖をコントロールできます。


ただし、(超)速効型以外のインスリンでしか通用しない方法です。最近の持続型インスリンは1日近く効果が続きますので、食事が入らない時のコントロールには便利ですが、使い方をいちいち相談しながら対処したほうが良いでしょう。 




J・その他の一般的な注意 
  

#1 安静を保つこと     
#2 食事と水分の量を記録すること
  
#3 血糖や尿糖をひんぱんに測る
     
#4 我慢せず、入院を考える   
#5 病院との連絡をおこたらない