帯状疱疹を発症した後、急速に衰える方を何度か経験しました。食事量が減って寝たきりになり、そのまま亡くなる患者さんもおられます。
表情を拝見して、痛みの辛さで抑鬱傾向になるのが原因ではないかと思っていましたが、帯状疱疹ワクチンで認知症の発症が減るという報告(Nature:02 April 2025)があることから、発症が直接脳に影響するのかも知れません。
いずれにせよ、帯状疱疹は辛い病気なので、過去にワクチンで大きな副作用が出なかった方は、予防を考えられたほうが良いと思います。
パーキンソン病の早期診断、治療
私が担当するのが主に末期の方なので、特にそう感じるのかも知れませんが、一時的に動きが良くなっても、全身状態は徐々に悪化していく傾向があり、患者さんに希望を持ってもらうのが難しい印象です。対処のための薬が多いので、飲むだけでも大変そうです。処方していて気の毒に感じています。
認知症をともなうパーキンソン症候群(類似の症状が出る場合)は、薬の意義を理解できないまま処方を受けることになり、さらに可哀そうです。 治療で経過を遅らせたとしても、逆にただ長期にわたって患者さんを苦しめているだけではないかと、人道的な疑念や過剰診療への不安も感じます。
若くて認知機能が正常の方なら、必要な治療をすべきと思いますが、高齢の方の場合、私としては必ずしも積極的に薬を出すべきではないように思います。パーキンソン症状=治療という単純な考え方は問題で、年齢、体力、認知機能をスコア化して治療対象を絞るべきかも知れません。ただし、これは一般的な意見ではありませんので、個々に相談して、専門家の意見も参考にしながら対応を決めるべきと思います。
症状が出る前に、血液検査で診断できるのではという報告が出ました(https://doi.org/10.1038/s43587-025-00851-z)。 もし診断が早くなれば、治療の開始時期を適正化できるかもしれませんし、病状の進行を抑える方法が分かるかも知れません。一定期間の治療で、その後の経過が良いと分かれば、治療を受ける患者さんの気持ちもずっと明るくなるでしょう。
IPS細胞の技術で必要な細胞を作り、脳に移植する研究も進行中です。京都大学では実際に患者さんに移植し、細胞の生着が確認されています。根本的治療法になるかも知れません。
CT検査と癌
CT検査は病気の発見、病状の把握において非常に重要です。意識障害、麻痺、腹痛の急患が来た時は、CT検査することで見逃しが減り、速やかな対処につながります。
ただし、CTでは放射線に被爆しますので、発癌性が危惧されます。CT検査と癌の発生に関して新しい論文が発表されました(JAMA Intern Med.doi:10.1001/ jamainternmed.2025.0505)。
それによると、癌の5%がCT検査によって発症する可能性もあるそうです。日本の場合は検査の頻度が他国より多いそうですので、影響はもっとあるかも知れません。 ただし、5%という数字は証明されたものではないと思います。発症した癌の原因がCT検査か他の理由か、明確に区別するのは困難です。
でも被爆の影響を証明できない間は、検査を制限する必要がないという理屈は通用しません。発癌性が懸念されるなら、一定の制限は必要のはずです。
問題は適性かどうかに関係なく検査されている現状です。それには司法判断の影響もあると思います。軽い症状で救急外来を受診された患者が、CTでないと診断できない疾患であること後で分かり、担当医が有罪になる事例は珍しくありません。病院としては、訴訟沙汰を避ける目的で過剰に検査せざるを得なくなります。 司法側は患者さんの権利を守るために判断しているはずですが、結果として検査を増やす要因になっていることも否定できません。
また、業績や収益を優先して頻回に検査する病院も皆無ではないので、検査の頻度に関してガイドラインを設ける必要性を感じます。今日までできていないことを考えると、利害が絡むために口をつぐむ人が多いのでしょう。学会、病院、行政、司法、医師個々人のそれぞれに、熟慮すべき点があるようです。癌を増やしたら、それに対する責任がないはずはありません。
診療所便り 令和7年6月分より・・・(2025.05.31 up)