8月24日から、福島第一原発の処理水の放出が始まりました。
処理水は薄められたもので、人体への影響は少ないと言われていますが、気持ちの面では不安を覚えます。少なくとも、わざわざ飲みたいと思う人はいないはずです。今年以降はサンマを買う時に、ちょっと迷うことでしょう。
処理水の海洋への放出は、他の国でも以前からやられていたそうです。たとえ福島から遠く離れていても、中国や韓国からの廃液がありますし、どこかで核実験が行われれば、大気中に多量の核物質が排出されますので、いまさらサンマのことを気にしても仕方ないようです。核物質の影響を全く受けないで過ごすことは、もはや無理なのだと思います。
 


 パンケーキ症候群 

小麦粉由来の製品でアレルギー症状が出ることがあります。実は粉に含まれるダニに対する症状で、小麦粉へのアレルギーではないのですが、通称でパンケーキ症候群と呼ばれています。 

この病気は誰にでも起こりえるはずです。過去に蕁麻疹を発症したことのない人でもダニに対するアレルギーを持っていないとは言い切れません。予測できない方が急に発症する可能性があります。

パンやケーキにダニが入っていても、よほど注意しないかぎり気づくことはできません。高熱で処理しても、ダニの成分は残りますので、アレルギーは起こります。どれくらいの量が入っているかを匂いや味で判断することは無理ですので、不運な場合は多量の抗原を摂取して一気に症状が進むことになります。    

症状が軽いうちはちょっとした痒み、蕁麻疹で済みますが、重症になると「アナフラキシー」という状態になり、嘔吐、下痢、血圧低下、呼吸停止などを来たします。その方の体質と、摂取する抗原の量によって反応は様々で、ゆっくり症状が進み、最初は痒みがない場合もあります。 

抗体検査も参考程度の意味しかありませんので、診断を確定することは難しく、臨床的な判断にならざるを得ない場合が多いはずです。また、症状の出だしの時点で重症度を予測するのは困難です。通常、数時間経っても呼吸状態が良いならショックは免れたと考えられますが、腸管から吸収される時間も考えないといけませんので、慎重な判断が必要です。  

予防法としては、小麦粉やパンケーキ粉を室温で管理しないこと、できれば冷蔵庫で保管し、使い切ることと言われています。夏場に室温で置いておくと、開封前でもダニが増えるかも知れません。 外食や買って来て食べる場合は、ちゃんとした管理がされているか確認するのは難しいので、運試しにならざるを得ないでしょう。

ただし、分からない点は多々あります。殺虫剤を添加すれば発症を予防できるはずですが、実態が不明です。海外からの要求で農薬の表示義務が変わり、今は添加の実像が分かりにくくなっています。また、殺虫剤の実際の効果、害もよく分かりません。

購入時点でのダニの混入の確率、販売店でどの程度ダニが増えるか、冷蔵でどの程度混入、症状発生を防げるかといった科学的調査の結果も入手できません。よって証明された予防法は、本当のところ分かりません。 

呼吸状態、意識に変化があってアナフィラキシーショックが疑われたら、迷わず救急車を呼び、呼吸や血圧を維持する必要があります。「エピペン」という注射剤を持っている方は自分で注射するのが有効です。ステロイド剤での増悪予防効果はあるはずですが、統計的に証明されてはいないようです。

ショックにならない場合の治療法は確立していないようです。激しい蕁麻疹を発症したら、呼吸が止まる可能性を考え、基本は一泊ぐらい入院すべきではないかと思います。嘔吐が激しいなら点滴も必要でしょう。軽症の場合は、抗アレルギー剤やステロイド剤の内服などで乗り越えられます。 



 バイアスピリンの意義 

バイアスピリンは、血液をサラサラにする薬です。心筋梗塞や脳梗塞を起こされた方には、必ずのように飲んでもらっています。治療指針がそうなっているからです。

バイアスピリンは強力な薬ではありません。日本人のラクナ型脳梗塞を予防する効果は、あまりないと考えられています。米国や豪州の統計が発表されました{JAMA Network Open.2023;6(7):e2325803}。   

結果としては、脳梗塞の発症を予防する効果は認められず、逆に頭蓋内出血が0.2%ほど増えていました。たった0.2%でも、出血は後遺症を残しますので無視はできません。

対象者は脳梗塞の既往がない方でしたので、つまりどうもない人が予防のためにバイアスピリンを飲むのは意味がなく、この薬での一次予防は無理と考えられます。   

血をサラサラにする効果の選択性に限界があるからでしょう。血管が詰まりそうな部分にだけ作用し、出血しそうな部分に作用しない薬ではありません。そのような薬が開発されたら、もうバイアスピリンは使われなくなるはずです。

この統計の結果は日本での結果と似ています。脳梗塞や心筋梗塞を起こした方には有効としても、未発症の人が飲んでも良くないばかりか、逆に出血が増えるだけという結果は同じです。  

血小板に作用し、血をサラサラにする薬は種々あります。チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレルといった薬が代表的です。一個だけで効果が不十分な場合、複数の薬を併用することがあります。 どの場合も、完璧に発作の再発を予防しつつ、出血の副作用がないで済ませることは難しいようです。 

副作用は怖いので、指針から外れて独自の治療を試みるような事はできません。治療指針に従って処方してはいますが、残念ながら私も出血の副作用を起こしてしまったことが何度もあります。血をサラサラにする治療薬の意味を改めて考え、出血の危険性を再認識したいと思います。  




診療所便り 令和5年9月分より・・・(2023.08.31 up)  




 
          

 

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