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帯状疱疹を予防するワクチンがあります。その接種に補助金が出ることになりました。年度内に65歳、70歳~と、5年きざみの年齢を迎える方が対象者です。   
補助は出ますが元々2万円以上するワクチンですので、自己負担金11,000円を2回支払う必要があり、安くはありません。    
でも帯状疱疹の痛みは辛く、うつ病のようになって食事が入らなくなる人もいますので、できれば接種を受けてください。6月以降に案内が郵送されるそうです。
    


 人工甘味料による血管障害の機序  

糖尿病患者に砂糖菓子をあげると明らかに有害ですので、栄養士の多くは人工甘味料を紹介していました。人工甘味料なら糖代謝に影響しないから害はない、そんな理屈でした。    

私はあえて勧めるだけの根拠がないと考え、甘味料はすべて可能な限り控えたほうが良いと話していましたが、私のような意見は少数派でした。甘いものが欲しい人の気持ちを理解できていない・・・そんな印象を持たれたようです。  

でも統計をとってみると、甘味料は動脈硬化に悪影響がありそうです。どのような理由かは長いこと謎でしたが、今回、その機序を推定した研究が発表されました(
https://doi.org/10.1016/j.cmet.2025.01.006)。    

甘味料のアスパルテーム(パルスイート)をマウスに投与すると、糖分をあげた時と同じく、インスリン分泌への刺激が確認されました。動脈硬化症のモデルマウスでは、動脈硬化の進展も確認されました。つまり、お砂糖と同じような反応があり、血管に害をもたらすことが示唆されます。     

ただし、実験動物と人間は違いますので、この発表の結果がそのまま人間には当てはまるとは限りません。アスパルテームは多くの研究を経て食品添加物として認可され、許容範囲内なら安全と言われています。ただ、その研究の精度にも限界はあるので、あえて積極的に摂るものとは考えないほうが良いでしょう。 

医師や栄養士、薬剤師の立場にある人が患者さんに甘味料を紹介するのは、患者さんの気持ちより先に、モラル的にありえない気がします。患者さんに害をもたらす可能性のある問題では慎重さが望まれます。 

私はたまにアンコの味を思い出して急に欲しくなることがあります。甘みは脳に作用し、幸せや満足感の記憶と結びつき、依存性が生じる傾向があります。許容範囲の量を守れるかどうか、脳に作用して砂糖への依存も呼び起こさないかといった問題も懸念されます。
なので、甘いものは基本として制限すべきと思います。    


 ナラティブの支配 


「ナラティブ」は、人が個人の視点に基づいて語る話を意味する言葉で、客観性は問わないというニュアンスがあります。コロナの流行において、LINEなどを中心に様々なナラティブ話が流布され、情報に惑わされた経験をお持ちの方も多いはずです。 

いろんな情報が飛び交いましたが、中にはひどい内容もありました。でも、影響力のある人物から断言されると、信じたくなります。

感染症対策の中心となった学者や政治家の多くはネット上で激しく批判され、殺害予告を受けた方も多かったそうです。 行動制限のせいで売り上げが落ちたら、それを進言した学者は許せないでしょう。ワクチンで酷い副作用が出たら、いかに説明しようとも、ワクチンを勧めた学者は間違っていて自分のナラティブこそが正しいと、言いたくなるはずです。   

情報交換技術が進歩すると極論、断言、右傾化が幅を利かす傾向があり、頑として自説を曲げないモッコスのような人が勇者のように思えます。屁理屈や論点のはぐらかしなどの技術を駆使すれば、言い負けはしません。言い負けしなかったから正しいわけではないのですが、正しいような気分になります。 

国内でも海外でも、コロナの流行の前から弁舌が巧みで口論に強い人が人気を集め、選挙で票を集める傾向がありました。選ばれた方が正しい施策を行えれば良いですが、ナラティブだけで実務を遂行できるとは思えません。 

正しい意見を持つのは難しいことです。 私達は常に次の危機への対策を練る必要がありますが、ナラティブの影響を受けてしまった私達が、次の危機において政府や学者を信じて行動できるでしょうか? 多くの人が疑いの目を持っていると思います。海外の新聞でもその問題が論じられています(The Guardian.com 3/9版)。  

おそらく未経験のことに私達が戸惑い、自信を喪失し、頭を整理できずに怪しい意見に揺さぶられているのが現状で、政府も学者も私達自身も、自信と信頼を取り戻す努力を続けるしか、ナラティブの支配から逃れる手はないと思います。
  



診療所便り 令和7年5月分より・・・(2025.04.30up)