診療所の近辺でも解体、改築工事がようやく増えてきました。資金の確保や工事内容の決定、業者との交渉などは、大変なストレスになります。 熊本地震は大きな災害でしたから何ごともスムーズに行かず、イライラされた方も多いでしょう。  
見慣れた家がなくなると寂しい気もしますが、きれいな家が増えると、気分的にも復興を感じることが出来るかも知れません。


  ACE阻害剤、ARB 

ACE阻害剤やARBは血圧の薬で、降圧剤の中心的な役割を持つ薬です。腎臓や心臓の保護作用が証明されており、寿命を延ばす効果があると言われています。しかし、独特な問題点もあります。 
第一は、咳の副作用があることです。人によっては急な呼吸不全が起こることもあります。第二に、一時的に腎機能を落とすことです。血清カリウム値を上げて、不整脈を起こす可能性もあります。

この薬の副作用を調べた統計が発表されています(BMJ 2017;356:j791)。使用開始後に腎機能が悪化する例では、これらの薬に特徴的な寿命を延ばす効果に関しても、期待しすぎてはいけないようです。かえって病気を増やし、寿命を短くする可能性もあります。腎機能が悪化しないなら使うと理解すべきでしょう。   

血圧の治療は、ただ血圧を下げればいいのではありません。脳や心臓の病気を減らし、寿命を延ばさないといけません。したがって、優れた効能の薬を使っていても副作用が出るなら中止し、他の薬を探す必要があります。これは昔からの治療の原則で、特に新しい知見ではありません。 

ところが、この原則は守られていません。大病院でも、この系統の薬にこだわるあまり、副作用への注意が不足している例が多々あります。「この薬は腎臓を保護する良い薬」→「腎臓が悪い人には絶対使うべき」→「腎機能が悪化し寿命が短くなっても使うべき」そのような本末転倒の勘違い、思考過程の誤りが散見されます。 

どの程度の腎機能障害まで使用を認めるべきか、そこは微妙な問題ではありますが、その点に関しては、ひとつの論文だけで判断はできません。今後の報告を待たないといけないでしょう。さらに、慢性腎臓病で腎機能が悪化しつつある方には、この系統の薬を使用することが原則ですので、どのような方を対象に、いつからいつまで使うべきか、再考してみる必要がありそうです。  
治療に際しては、良い面ばかりに固執しないで、効果と副作用、その意義に注意すべきです。そして薬は副作用が出ないものを選び、必要な間は続け、必要なくなれば中止、これが原則と思います。  



 冠動脈ステントの性能  
 

冠動脈ステントは、狭心症や心筋梗塞の際に使われる器具です。心臓を取り巻く血管に細い部分がある場合、そこにパイプ状の器具を置いて、血管の狭窄を緩和するわけです。もし狭心症を発症したら、血管造影室でステントを入れられることが多いですが、ステントには様々な種類があり、性能も色々であるはずですが、患者側が選んだという話はあまり聞きません。医者が勝手に選んでいるのではないでしょうか?ステントの性能に関する研究のひとつを紹介します(N Engl J Med 2016;375:1242-1252)。

薬剤溶出ステントと言われる器具は、ステントに血管の細胞が侵入するのを阻害する仕様になっています。そのステントが塞がる危険性を減らし、血管が拡がったまま維持されることを狙えるわけです。製造元から様々な形状のステントが売り出され、その性能に関して多くの報告がなされ、今日ではほとんどの例で薬剤溶出ステントが使われています。確かに短期間に限れば、再狭窄の率は減ったように感じます。今回の報告でも、96%の方が薬剤溶出ステントを使用していました。
でもこの報告では、薬剤溶出ステントと旧来型ステントで、5年ほど経過をみると、性能に大きな違いはなかったようです。両方とも16-17%程度の方に何かの問題が発生しており、大差あるとは言えません。この結果には反論もありうるので一概には言えませんが、薬剤がついていればいいとは限らないのかも知れません。 

ステントは外国製が多く、値段が高いことや
国内外で価格に差があることが問題です。性能に大きな違いがないと分かれば、価格の安い製品に移行すべきかも知れません。少なくとも、病院は患者の家族や保険組織にステントの性能を説明し、納得させないといけないでしょう。ほとんどの場合は医者に選択を一任されるとは思いますが、担当医師の選択の根拠が曖昧である可能性はありますので、説明の義務はあるはずです。   
そしてさらに、条件によってはステントを使用せず、脂質や循環動態の管理だけで経過を見て良い場合もあるはずで、そのような無駄を減らす努力も、病院や術者の恣意的な判断の影響を除くために、おそらく今後は必要と思います。     




 診療所便り 平成29年4月分より・・・(2017.03.31up)